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予想以上に零は手際や要領がよく、あっさりと裏方業務を覚えてしまった。
開店時間になって俺はホールに出たが、ちらちら様子を見に行っても困った様子はなさそうだ。
「あいつ、意外と手際良いな。」
「雇ってよかったでしょ?」
「おまえも想定外だったろ。」
「バレました?」
この調子ならクビになることはなさそうだ。
店長も感心した様子で、零の仕事ぶりを褒めている。
23時になり、俺と零の終業時刻になった。
「お疲れ様。また明日も頼む。」
「お疲れ様でした〜。」
制服から私服に着替え、冬の夜道を二人で歩く。
夜は格段に寒くて、コート1枚じゃ足りないくらいだ。
「さっむ……」
「…………くしゅんっ」
「大丈夫か?」
「……大丈夫。」
震えている零の手を握ると、驚くほど冷たかった。
まるで血が通っていないくらい、氷のように。
「冷たっ!まじで大丈夫か?」
「……うん、いつもだから……。」
「いつもこんなんだったら死ぬわ…。手袋ねぇしなぁ…。とりあえず、ここ入れとけ。」
零の手を握ったまま、コートのポケットに手を突っ込む。
俺は人より少し温かいから、ないよりマシだろ。
こいつと会ってから、周りの友達が彼女とするようなことの初めて、全部持っていかれてる気がする。
「自分がこんなことする柄だと思わなかったなぁ。」
「……どんなこと?」
「えー、言わない。」
「……意地悪。」
「おいおい、手繋いでもらっててそんなこと言っていいのか?離すぞ?」
勝手に俺が繋ぎ始めたんだ。
何の脅しにもなってなくて、自分で言っといて笑ってしまいそうになったが、零の手はギュッと俺の手を握る力を強めた。
「………ごめんなさい。」
「え?」
「………離さないでほしい。」
何だよ、それ…。
冗談だろ?と笑い飛ばそうと思ってたのに、零の目は真剣で、俺は言葉を失ってしまった。
無言で歩いていると、なんか照れ臭くなってしまって、俺は無理矢理話を切り出した。
「あー、この辺だな。零が倒れてたの。」
「…………。」
「びっくりしたんだぞ?俺、雨宿りしに路地裏入ったら、お前が倒れてるんだもん。すっげぇ焦ってさぁ…。」
「…………。」
「変なやつに見つからなくてよかったな。つっても、俺も零を部屋に泊めてるし、零からすれば十分変……って、どうした?」
突然零が立ち止まり、俺も立ち止まって振り返った。
零は泣きそうな顔で俺を見上げる。
「……助けてくれたのが、檸檬でよかった…。」
「おう……、そりゃよかった…。」
「……檸檬は、優しいね…。」
綺麗。
純粋にそう思った。
微笑んだ零は、今にも消えてしまいそうな、そんな儚さを持っていた。
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