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あなたの背中
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幼い頃、必死に追いかけた。
あなたの背中。
「たっくん待って!」
「何?カズも一緒に来るの?」
「うん」
“待って”と言うと必ず振り返って笑顔を向けてくれた、あなたに
さりげなく僕に手を差し出してくれた、あなたに
幼いながらにも恋心というものを抱いていた。
「ったく、和真は本当に大志にベッタリだよな。俺、一応兄貴なのに。」
「うん!だって、僕たっくんが大好きなんだもん!」
“好き”という言葉をなんの抵抗もなく、口にできたあの頃が懐かしい。羨ましい。
時は過ぎて中学生になった僕はそれでもまだたっくんのことが大好きで、高校生になった二人と一緒に遊んだり、時々たっくんと二人きりで遊んだりするのがとても楽しくて幸せだった。
ずっとこの関係が続けばいいのに、なんて思っていた。
そんなある日、たっくんに真剣な顔で話したいことがあると言われてドキドキした。
話したいこととはなんだろう。
もし、もしたっくんが僕のことが好きだという話だったら...
そんな自分に都合のいい考えを持って、たっくんを部屋に入れた。
ベッドの上に二人で座る。
変な緊張感が生まれてしまい、黙ったまま気をまぎらわせようと自分の指で遊ぶ。
しばらくの沈黙ののち、彼の口から出た言葉はとても残酷なものだった。
「俺、カズの兄貴と付き合うことになった」
何かが崩れるような、そんな感覚。
心臓がズキズキして息がしにくい。
胸が苦しい。
「俺、ずっと好きだったんだ。男同士だし、昔からの友達と自分の兄貴が恋人になるだなんて気持ち悪いかもしれないけど...一応報告、な」
そう言って困ったような笑顔を此方に向けられた。
なんでなの?
僕も男だし、過ごした時間はほとんど変わらないはずなのに...なんで、たっくんは僕じゃなく、兄ちゃんを選んだの?
ドロドロとした感情に呑み込まれる。
悔しい。
なんだか二人に置いて行かれたような気がして、悲しい。悔しい。苦しい。
零れてしまいそうになる涙を必死に堪えた。
そして、先程から心配そうに此方を見詰めるたっくんに精一杯の笑顔を作ってこう言う。
「兄ちゃんとお幸せに」
ああ、なんて馬鹿なんだろう。
なんで気付かなかったんだろう。
あの頃、必死に追いかけたあなたの背中は...僕と同様に自分の前を走る好きな人を追いかけていたということに。
今になって、気付いた。
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