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脅迫状パニック!①-1
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「おはようございます!凛さん!」
車をマンションの下につけ、元気よく挨拶したのはマネージャーの雄谷敦士《おやあつし》。
「はよ」
「今日もしっかりキマってますね!」
敦士はそう言うと、ニコニコ笑った。
当たり前だ。
おれは今あの西園寺凛なんだぞ。
最推しをダルダルの格好で歩かせるなんて絶対させられん。
髪はもちろん眉毛まできっちり整えて出てやったわ。
おれは開けられたドアから車に乗り込む。
シートには、既にメンバーの一人である鷹宮優《たかみやゆう》がいた。
彼は『AshurA』のセカンドヴォーカルでありリーダーでもある。
「はよ」
「おはよ」
軽く挨拶を済ませると、おれは優の隣に座る。
優は不意におれの顔を見ると、じっとその瞳を覗き込んだ。
「…なに?」
あんまりその整った顔で見つめないでほしい…。
『AshurA』のメンバーは全員顔面偏差値が高いのだ。
まあ、芸能人でボーイズラブゲームのキャラクターなんだから当然なんだけど、最推しでなくとも、ちゃんと全員の全ルートをクリアしたくらいはみんなを好きなんだ。(ちなみに最推しの凛は軽く二桁はクリアした。)
じっと見つめられると照れる。
「なんか調子悪い?」
「え?」
「顔色が悪い気がする」
おれは、今朝のおれの葛藤がバレたんじゃないかとどきりとした。
「いや?調子悪くないけど」
おれは内心ヒヤリとしながら平気そうにそう答える。
この優という人間は、妙にこういう所に鋭い。
おれが落ち込んでると、どれだけ隠そうとも必ずと言っていいほど気がつく。
それはそれでありがたい存在なんだけど…今日のこれは何と言って説明したらいいのかもわからないし、説明した所で理解なんてしてもらえないからあまり突っ込まないでほしい。
だって、『この世界は昔おれがプレイしてたゲームの世界でさー』とか言い出したら、普通頭がおかしいやつだって思うよな。
「本当か?」
「今日のは本当」
「ふうん。ならいいけど」
優はそれ以上は聞かず、見ていた譜面に視線を戻した。
イケメンは何してもイケメンだな。
おれは車の中で文字が読めないタチなので、スマホとイヤフォンを出し、今日レコーディング予定の新曲をかける。
すると、突然優がおれの耳に指を伸ばし、イヤフォンの片方を取った。
「片方聴かせて。音源チェックしたい」
「え?ああ…いいけど」
いや、いいよ。
いいけど、先に言えよ!
ドキドキしちゃうだろ!
おれのドキドキを他所に、優は「サンキュ」と言って自分の耳にイヤフォンをつける。
そのまま、再び譜面に視線を落とした。
おれのイヤフォンはちょっとこだわりがあって、有線のイヤフォンを使っている。
やっぱり、Bluetoothよりもなんとなく音がいい気がするんだよなぁ。
だから、イヤフォンを分け合ってる今の状態は自然と優との距離も近くなる。
勿論、優はなんっっっの他意も無いと思うよ?
だから、一人でこんなドキドキしてるおれ、格好悪いことこの上ないよな。
くそ、これだからイケメンは!
いや、おれもイケメンだけどな!
そんな状態がしばらく続くと、今度はもう一人のメンバー黒須清十郎《くろすせいじゅうろう》のマンションの下に着いた。
「おはようございます、清十郎さん!」
敦士の元気な声と、清十郎の「おはよう」という声が聞こえる。
清十郎は『AshurA』のメインダンサーだ。
しばらくするとガラリと車のドアが開き、清十郎が乗り込んできた。
「おはよう」
「はよ」
「おはよ」
清十郎は挨拶をすると車を見渡し、なぜかこの広いロケバスの中でおれの隣に座る。
いや、三列シートなんだから二列目でもいいじゃん!
三列目に男三人とかぎゅうぎゅうじゃん。
ただでさえお前背高いし、後部座席狭くない?
すると、同じことを思ったらしい優が清十郎に声をかける。
「……清、狭くない?前行けばいいのに」
「大丈夫だ。それに凛に相談したいこともあったからな。お前が狭いなら、お前が前に行ってもいいんだぞ?」
「おれはここが落ち着くの。凛にイヤフォンも借りてるし」
なんだよ、ロケバスの席くらいで喧嘩すんなよ。
「あー、じゃあおれが前に…」
「「それはだめ」だ」
なんでだよ。
なんでそこだけ息ぴったりなんだよ!
おれは後部座席譲ってやるって言ってんのに。
「席変わらないなら出発しますよー?」
敦士の言葉に、結局おれたちは男三人最後部座席にぎゅうぎゅうに座って移動するのであった……。
「で、相談て何?」
「ああ。今日の歌番組なんだが、お前のヴォーカルソロの後、おれのダンスソロがあるだろう?その時の演出なんだが、ここでこういった動きを取り入れてみようと思うんだがどう思う?」
身振り手振りを交えながら、清十郎はおれにダンスの説明をする。
メインダンサーの清十郎はダンスの振り付けもするし、演出もするからよくこういった相談を受けるんだけど……相談するなら同じダンスメンバーの一哉《かずや》の方が良くない?
ところが、それを清十郎に言うと「ヴォーカルだからこその視点を知りたい」と言われてしまう。
まあ、それで清十郎が納得できるならいいんだけど。
「なるほどな……うん、いいんじゃね?清十郎なら上手くやれると思うし」
「そう思うか!良かった」
清十郎はそう言うと、その凛々しい顔を破顔させる。
うわ、反則。
イケメンの笑顔反則。
おれは眩しい笑顔に当てられて目を覆うと、顔を自分の膝に埋める。
「なっ!どうした凛!」
「……イケメンにあてられた」
「何言ってるんだか、自分が一番顔面偏差値高いのに」
優、それとこれとは話が別なのだよ……。
ため息をつかないでくれ。
「そんなことより凛。ここのコーラスパートの部分だけど……」
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