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脅迫状パニック!③-1
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「……はい!エンディングカット撮影終了です!皆さんお疲れ様でしたー!」
歌番組の収録を終えて、今日のスケジュールは全部完了した。
今日は早く終わったなー。
とはいえもう午後一〇時は回ってる。
早く帰ってシャワー浴びたい……。
おれは軽く伸びをすると、メンバーを振り返った。
「翔太……は車なんだっけ?一哉も車?」
「ああ。乗ってくか?」
「「それはーー」」
「あー、そういうのいらねえ」
一哉は優と清十郎のハモリを途中で遮ると、さも面倒そうにしっしと手を振った。
さすが一哉、ドS王子。
「ええー車ならおれの乗ってけよー」
その後ろからひょこりと翔太が顔をだす。
うーん、確かに翔太の車見てみたいなー。
でも、今日はーー。
「演技のこと聞きたい。一哉、頼めるか?」
「ああ、いいぞ」
ニヤリと笑って一哉が頷く。
ーー気のせいか、他の三人が舌打ちしたようか気がするんだけど、なんだ?
「気にすんな。ほら行くぞ」
え、一哉今おれの心読んだ?
怖いんですけど。
「おい、ボーッとしてると横抱きして連れてくぞ!」
ちょ、怖!
何その脅し!?
「いやいやいや、それ誰得?」
「さぁな」
一哉はそう言うと、スタスタと歩いて行く。
いや待てって。
悔しいけどおれとおまえとでは脚の長さが違うんだよ!
おれは若干早足で一哉に追いつく。
「で?何が聞きたいんだ」
一哉は車に乗り込み、シートベルトを締めるとバックで駐車場から車を出しながらそう聞く。
おれのヘッドレストに腕をかけて、片手でハンドルを握る一哉の格好良さに眩暈がする。
なんなの、この人。
現代の王子様なの?
白馬ならぬ、日本国内でアストンマーティンのヴァンキッシュSクーペ乗り回すとか、またこれが似合うから悔しい。
「ジェームス・ボンドかよ!」
あ、やべ。
心のツッコミが口に出ちまった。
「は?ジェームス・ボンドよりもおれの方がいい男だろ」
「あ、そうですね」
おれは適当に返しながら目線を前に集中。
イケメンは出来るだけ目に入れないようにして聞きたかった事を口に出した。
「あのさ。おれ、演技経験ほぼゼロだから聞きたいんだけど……まず、ドラマって何すりゃいいの?」
おれの問いに、一哉は片手でハンドルを握ったまま答える。
「ああ……まずは台本を読み込むことだな」
「ふんふん」
「物語の全体像を掴んだら、後は登場人物のキャラクターを把握する」
「ふんふん」
「細かいところは監督や共演者とのすり合わせになるが、大体のイメージは作って行った方が良い」
「ふんふん」
「まあ、おまえの場合はそのキャラクターになりきった方が早いかもな。『おれだったらどう思うかな』とか」
「あ、それなら出来るかも……」
「演技は……言葉で言って出来るもんでもないからな……」
前を向いたままそう言う一哉に、おれは縋るように泣きつく。
「ええ、おれ演技とか、学生時代の学芸会でしか経験ないよ!」
それは本当の本当だ。
しかも、それも中学生まで。
高校生の学祭はデビューしてたからほとんど記憶ない。
雅紀だった頃も、勿論演劇経験ゼロ。
うう、なんか出来る気がしないぞ……。
「…そんな情けねえ顔すんな。本読みくらい付き合ってやるよ」
「え、まじ?やった!ありがと!」
なんだかんだ言って一哉は優しい。
久我さんは個人レッスンしてくれるって言ったけど、やっぱちょっと頼み辛いよな。
それに、正直初日に下手すぎて皆にドン引きされるのも辛い……。
「その代わり、この借りは高くつくぜ?」
「おれにできることならな!飯でも酒でもなんでもご馳走するぞ」
一哉はグルメだからクソ高いものをねだってくる可能性もあるが、ここは背に腹は変えられない。
一哉にヘソを曲げられたら困る!
「いや、何も奢らなくていいから……今度のオフ、一日おれに付き合えよ」
「へ?なに、そんな事でいいの?」
おれはあまりの事に拍子抜けしてそう聞く。
「ああ、それでいい」
なんだ?
どこか行きたいところでもあるのか?
よく分からないが、一哉がそれでいいならいいや。
「そっか。じゃあ今度のオフはデートだな」
「デ…っ…おまえ…」
おれの言葉に引っかかったのか、一哉が眉を顰めて言葉を詰まらせる。
え、そんなに嫌だった?
「なんだよ、ただの冗談だろ?そんな嫌がるなよ、傷つくぞ、おれ」
おれがそう口を尖らせて言うと、一哉は盛大なため息をついた。
「……はぁ、これだから無自覚のやつは……本当に」
「なんだよ」
「いいや。何でもない。じゃあデートな」
一哉はヤケになってそう言うと、おれの頭をクシャクシャと混ぜた。
「わ、何すんだよ」
「べつに?」
そう言うと、一哉はいつものクールな表情に戻り運転に集中した。
一哉と別れて部屋に戻ると、おれはシャワーを浴びてベッドに寝転ぶ。
そのまま貰った台本を開いた。
ぺらりぺらりとページを捲るたびに、おれの涙腺が緩みまくってくるのが分かる……。
最初は仕事のつもりでめくっていたページも、徐々にいつもの本にのめり込むように読み耽っていく。
最後のページを閉じたときには、明日の仕事ヤバいんじゃないか?と言うほど顔が涙でグチャグチャになっていた。
え、これ本当におれが演じるの?
出来る?大丈夫?
瑞樹の健気さが辛い……。
おれはずびーっと鼻をかむと、物は試しと鏡の前で台詞の一つを読んでみる。
『おれがいる事で……橘堂さんが辛い立場になるなら……おれは……あの人の前から消えた方が良いのかな……』
うう…辛い…涙出る…。
おれはとりあえず台本を閉じると、目を冷やすために氷を取りに行く。
ベッドに横になり、目を冷やしながらおれはため息をつく。
何だか今日は色々なことがあったな…。
以前の記憶を取り戻したり、ドラマの話が来たり……。
ボーッとそんな事を考えているうちに、おれはいつの間にか眠りに落ちていた。
翌日。
おれはスマホのアラームでベッドから飛び起きると、鏡の前へ直行する。
ヤバイ、あのまま寝てしまったからきっと顔がひどい事になってる……!
恐る恐る鏡を覗くと、ほとんど解らない程度に少しだけ腫れぼったい目があった。
よ、よかったー!
流石イケメン、泣いても目がほとんど腫れないのか!
おれは優に突っ込まれないように念入りにパックとホットアイマスクで顔を引き締めると、頬をパンと叩く。
そこまですれば、もうほとんど分からない。
おれは手早く身支度を整えると、マンションを出た。
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