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脅迫状パニック!⑦-1
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「ふぁああぁ~」
おれはもぞもぞとあくびをして目を開ける。
そこには見慣れない天井。
……あ、そうか。
昨日は清十郎の家に泊まったんだった。
ていうか、清十郎は?
「おはよう、起きたか?」
おれの心を読んだ様に、シャワールームから上半身裸の清十郎が出てくる。
くっ……すごい良い身体。
程よく着いた筋肉がゴツすぎず、しなやかで美しい。
分厚い胸筋に締まった腰、六つに割れた腹筋。
おれ、胸筋から腰までのラインが好きだなぁ……じゃなくて!
つい見惚れてしまったじゃないか。
「シャワー浴びてたの?」
おれは視線を無理やり外すと、何気ない風を装って聞く。
「ああ。朝のトレーニングをしていたからな。凛はよく眠れたか?」
「うん。おかげさまで」
「良かった。あんな事があった後だから、ちゃんと眠れるか心配してた」
……まさか、昨日おれを抱き枕にしてたのって、それが理由?
キスしたのも、そうやってふざけておれの意識を他へやろうとしてくれたの?
……清十郎ごめん、おれ、優に対抗意識燃やしてるだけだとか思ってたわ。
「なんだ?」
「……いや、清十郎はいい男だなーって」
「そ、そうか?」
何照れてるんだよ。
おれまで照れちゃうだろ。
おれは照れ隠しにベッドから這い出ると、洗面台までいそいそと歩いていった。
洗面台には、ご丁寧におれ用の歯ブラシがコップに刺さっていた。
な、なんかコップに歯ブラシ二本とか…初めての同棲カップルみたいじゃない?
なんておれはくだらないことを考えながら歯ブラシを手に取った。
今日はレコーディングの続きと歌番組の収録だっけか。
歯を磨きながら今日のスケジュールを頭の中で確認する。
「凛、朝食パンでいいか?」
「あーあひがほ」
優もそうだったけど、清十郎も料理するのか…って、パンくらい焼くよな。
おれは歯を磨き終え、髪をセットしリビングへと向かう。
「あれ?朝食っておれの分だけ?」
「おれはいつも朝食はプロテインだけだからな」
ええ、自分は食わないのに準備させてすまない……。
そして、その締まった身体はストイックなトレーニングとプロテインで作られていたのか……。
「なんか悪いな」
「気にするな、これがおれのスタイルってだけだ」
おれは用意してもらったパンとサラダを食べると、今日のスケジュールの最終確認をしようとスマホを取った。
そういえば、昨日からまったくスマホチェックしてないなーなんて思いながら画面を開く。
「っ!」
おれは思わず画面を確認してテーブルにスマホを取り落とした。
ーーそこには数百件の非通知の着信の嵐。
留守録もパンパンに入っている。
「ーー凛、どうした?」
おれは震える手で落としたスマホを拾うと、清十郎へと渡す。
「スマホがどうし……ーーっ?!」
「これって……やっぱり…」
すると、今まさにスマホが着信音を奏でる。
画面には『非通知』。
清十郎は躊躇う事なくボタンを押し、おれの電話に出る。
「もしもし?」
『……っ!』
プツッ。
清十郎の声を聞き、電話は無言で切れる。
「……切れた?」
「ああ」
清十郎はその凛々しい眉を顰めると、おれのスマホを睨む。
「これは仕事用のスマホか?」
「ああ…うん」
「……敦士に言って、番号を変えてもらった方がいいな」
「うん……そうする」
「……凛、大丈夫か?」
「だ、大丈夫……」
本当は全然大丈夫でも何でもないけど、おれは虚勢を張る。
だって、ここで恐怖を認めてしまったら……この犯人に負けてしまう様な気がしたから。
「……そうか。でも無理するな。おれはいつでもおまえの味方だ」
清十郎の誠実な言葉が心に沁みる。
本当にいい男だ……。
清十郎はおれのスマホを自分のポケットに入れると、おれの手を握る。
「おまえのスマホは、今日おれが持っていよう。おれが着信を確認して渡すから、おまえはそれにだけ出ろ。いいな?」
「でも……」
「大丈夫だ、心配するな」
清十郎はそう言うと、コーヒーを喉に流し込んだ。
「さあ、そろそろ出かける時間だが……行けそうか?それとも休むか?」
「仕事は行くよ。こんな事くらいで皆に迷惑かけたくない」
「おまえの責任感が強い所は良い事だと思うが『こんな事くらい』なんて思うことはない。こういう状況でショックを受けるのも、恐怖を感じるのも当たり前だ。あまり自分を追い詰めるなよ?……おまえは一人じゃない」
清十郎の言葉に、おれは涙が出そうなほど感動する。
なんなのもう。
格好良すぎて惚れそうだよ、清十郎……。
おれは、最後のコーヒーを飲むと、自分の頬を軽く叩く。
「大丈夫。でも、何かあったら皆を頼るよ」
「ああ。それでいい」
そういった清十郎の笑顔に、おれはノックアウトされて視線を彷徨わせる。
くっそーこれだからイケメンは!
おれは清十郎に気づかれないようにそっとため息をついた。
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