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脅迫状パニック!⑪-2
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現場は言われた通り、厳重警戒が敷かれていた。
通常よりも倍ほどの警備員が立っている。
「LINくん、昨日の件聞いたよ。大丈夫かい?」
現場に着くと、拓海さんが気遣って声をかけてくれる。
「あ、拓海さん!おはようございます。……はい、おれはなんとか大丈夫なんですけど……。でも、皆さんに迷惑をかけないかが心配で……」
おれは思ったままのことを口にする。
拓海さんは少し困った様に笑うと、おれの頭をセットが崩れない程度に撫でた。
「きみは……本当に優しいね。大丈夫だよ。今日はこんなに警備も強化してもらってるし」
「はい、よろしくお願いします!」
おれは頭を下げると、他の出演者に挨拶をしに行く。
「………」
一通り挨拶が終わると、いよいよ撮影に入る。
『出会った頃は こんな風に君のことを想うなんて思わなかった
いつのまにか ぼくの心の一番深い部分に君が入り込んでいたよ♪ 』
『駄目だ!感情はぶつけるんじゃない、感情は曲に乗せるんだ!もう一度!』
『はい!
君の笑顔が
君の笑い声が
ぼくを幸せにする
君の瞳が
君の吐息が
ぼくを人間にする
たった一人の ぼくの大切な君』
『そうだ、いいぞ!』
だんだん荒削りな歌からブラッシュアップするイメージで……。
おれは歌を歌いながら、瑞樹と自分が徐々にリンクしてゆく感覚を味わっていた。
『……よし。いいぞ瑞樹。合格だ』
橘堂プロデューサーにそう言われ、おれは心から喜びが溢れてきた。
この喜びは、瑞樹の喜びだ。
この人に認められたい、そんな思いが報われた瞬間。
おれは、自然のその顔に笑顔が溢れるのを感じる。
『あ…ありがとうございます!』
「……っ」
春人役の拓海さんが視線を逸らす。
少し目を伏せると、なんとも言えない優しい顔をして瑞樹の頬を撫でた。
『よく、やったな』
ゆるゆると撫でると、名残惜しそうにその手を離す。
お互いがお互いに惹かれていく、大切なシーンだ。
「はい、カーット!!もうね!二人とも最高だよ!」
監督が興奮気味に話す。
「特に最後の場面!瑞樹の健気な笑顔と、それに惹かれて行く春人の表情…最高の絵だった!」
よ、よかった!
大切なシーン、なんとかポカらずに済んだ!
「じゃあ、一旦休憩入れようか!」
そう言った監督の声に、場の空気が和らぐ。
おれもホッとしたから喉が渇いた。
「……LINくん。すごいよ、きみ」
「拓海さん!」
気がつくと、拓海さんがおれのそばに来ていた。
「いや、そんな!拓海さんの演技が素晴らしいので……引っ張っていただいてます!」
「恋を、してるの?」
「へ?」
「いや……なかなかね、素の演技であれほど恋する顔をできる役者はいないから……もしかしたら、恋をしてるのかなって」
そ、そこまで褒めてもらえるなんて……!
おれは感激した。
「いえ……お恥ずかしながら……恋人なんて存在がいたことがないんです……」
「……!そうなの?」
「や、やっぱり変……ですよね?」
おれは恥ずかしそうに頭をかくと、苦笑いをする。
「いや……変じゃないよ。むしろ好都合だ」
好都合?どういうこと?
おれは頭にハテナをたくさん飛ばすと、首を傾げる。
拓海さんは少し笑うと、おれの耳に唇を近づけて囁いた。
「……きみの恋人に、立候補しようかな。きみに、恋してしまいそうだから。LINくん……いや、西園寺凛くん」
………?!
おれは、パッと拓海さんの顔を見上げると、拓海さんは少し笑ってシイと唇に指を立てた。
おれは耳まで赤くすると、思わず俯く。
いや、冗談だよな?
冗談に決まってるよな?
拓海さんはそんなおれの肩を叩いて颯爽と去っていく。
去り際に耳元で再び「考えておいて」と言い残しながら……。
じ、冗談……じゃないのか?
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