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脅迫状パニック!⑫-2
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「凛さん、眠れませんか?」
暗闇で目を開いていたおれに、横から敦士が声をかける。
「あー……流石に一日中寝てたからな」
おれはそう言うと、椅子に座ってベッドサイドにいる敦士に視線をやる。
「敦士こそ、疲れたろ。付き添い用のベッド準備してもらってるんだし、寝ろよ」
「おれは、大丈夫です」
「強情だなあ」
「凛さんには負けますよ」
おれはゆっくりと上体を起こすと、敦士と視線を合わせる。
「おまえ、まだ色々考えてるだろ」
「……」
「黙ってても分かるんだからな?おまえ、すぐ責任を全部抱え込もうとするから」
「凛さん……」
大方「責任を取って辞めます」とか考えてるんだろ、この頭でっかち直情型は。
そんな事されたっておれは全然嬉しくないんだぞ。
「おれは、おまえがAshurAに愛想つかすまでは、AshurAのマネージャーしてくれないと嫌だからな?」
「……っ」
おれはそう言うと、ベッドの上に置かれた敦士の手を握る。
「なあ、どうしたらおれたちのマネージャー続けてくれる気になる?」
「………」
「ん?言ってみ」
おれはそう言うと敦士の瞳を覗き込む。
その瞳がおれの視線を捉えて揺れた。
「……て、ください」
「ん?」
「キス、してください」
「………」
「……なんて、冗談ーー」
そう言う敦士の唇に、おれは自分の唇を重ねた。
ちゅ、と触れるだけのキス。
おれは唇を離すと、真剣な目をした敦士と目が合う。
敦士は切なげに瞳を細めると、次の瞬間噛み付く様におれの唇に口付けた。
何度も角度を変え、激しく唇を重ねる。
舌で唇をこじ開け、その舌を侵入させおれの舌を絡め取った。
「……っ…ふ」
おれは吐息を漏らすと、敦士のシャツを掴む。
舌を吸い上げられ、甘噛みされ、何度も絡み合わされる。
しばらくの後、その唇を離されるとおれは閉じていた瞳を開けた。
「……狡いです、凛さん……」
敦士はそう言っておれの肩口に顔を埋めると、ボソリと呟く。
「うん、ごめんな」
「……好きです、凛さん……」
敦士の小さな囁きが、闇に溶けて消えた。
おれは敦士の背中をポンポンと叩くと、「おれもだよ」と答える。
多分、敦士が欲しい答えは、少し違うと思う。
けど、これが今のおれに出来る精一杯の答えだった。
「凛さん……」
敦士はそう言って無理矢理笑顔を作ると、おれから離れる。
「おれは、AshurAの……LINのマネージャーです。これからも…この先もずっと」
「うん……サンキュー。頼りにしてる」
ごめんな。
おれは、おまえの気持ちに気がついて見ないふりをした。
狡いよな。
でも、それでもおまえに離れてほしくなかったんだ……。
「さあ、寝ましょう。明日は退院です!」
「ああ……そうしよう」
おれはそう言うと、ベッドに横になり目を瞑る。
敦士も簡易ベッドへ移動すると、布団の中に入る。
「何かあれば、起こしてください」
「わかった。おやすみ」
「おやすみなさい」
おれは、恋をしたことがない。
西園寺凛として生きている今も、徳重雅紀として生きていた時も。
推しとして、凛は好きだった。
でも、敦士にこんな切ない顔をさせる様な、そんな焦がれる感情をおれは知らない。
おれは、今まで知った様な顔で恋の歌をたくさん書いてきた。
それは『共感を呼ぶ』としてヒットし続けたが、そんなものはすべて机上の空論だ。
なんで、こんなおれを好きなんだ。
こんな、まやかしで出来たこのおれを……。
このおれにも、いつか……焦がれる様な恋をする日が来るのだろうか。
おれは寝返りを打つと、薄ぼんやりとカーテン越しに見える窓の外の灯りを見る。
ごめんな。
こんなおれでごめん。
おれは、そんなことを考えながら眠りについた。
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