アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
無題
-
ニュースを見る利久の姿に思わず息を飲んだ。
利久が息をするのも忘れたかの様に、静かに泣いていたからだ。
何事かと思い、テレビの画面に目を向けて、ああと納得する。
今日が、多くの人達が掛け替えのない人と唐突な別れを強いられた日だという事を思い出した。
静かな涙は徐々にカサを増し、遂には嗚咽を漏らして泣きだす。
どこかの誰かの為に、こんなにも心を痛める利久の横顔を見つめる。
正直、俺は利久の様に会った事も無い人の為に、こんな風に泣く事は出来ない。
だけど、そんな利久を見て、自分は心を痛めている
もし利久がいなければ、自分はこのニュースをぼんやり見て、何事も無い様に一日を過ごしていただろう。
こんな風に、テレビの前で足を止める事も無かった筈だ。
名前も知らない誰かの、大切な人。
だけれど、それはもしかしたら明日の自分かもしれないし、自分の大切な人にも起こりうるかもしれない。
現に、利久は早くに母親と別れを強いられたうちの一人だ。
理由は違えど、もう二度と愛する者に会えない悲しみは、俺の想像を絶する。
俺は、利久だけは奪わないでくれと普段は大して信じもしない神に都合良く祈るけれど、きっと誰もが自分の愛おしい人を奪わないで欲しいと願うのだろう。
願いの競争率の相場等検討もつかないから、叶うかどうかなんて誰も知らない。ただ、今はこの優しすぎる愛おしい人と離れない様に、俺は強く利久を抱き締めた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 8