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疲労
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恋とはこんなに難しいものだったか。
なんとなく好きかも、好きだわって、そうやって成り立ってはいけないものだろうか。
キス。
しょっぱい味がした。
ドキドキ、しなかった。
安心も、しなかった。
興奮なんて、できなかった。
絡め取られる舌をただ、預けただけ。これが恋人?よくいうよなぁ。
好き合ってるというには、俺たちはあまりにも脆い関係の上に立ってる。好きだよ、愛のこと。だって出来ることならこの先も仲良くやっていきたい。だけど、さ。別に恋人としてじゃなくてもいいんじゃねぇかって思うんだ。好きって言われたら好きかもって思ってしまう、そんな単純な俺。好きかもと思い込んだら好きだと思い込んでしまう、そんな単純な愛。だから、付き合うことは容易かったけど、それからは難しい。好きだと錯覚していたらキスだってセックスだって出来る、ただ、出来るだけだ。
いっそ、違和感に気づかなければよかった。そしたらもっと、恋に恋をしていてもこんなに苦しくはなかったはずだ。だって、初めの頃はずーっと幸せだったから。
幼馴染、18年間ずっと一緒、二人で一つ、…という、大前提のもと、俺たちの恋愛ははじまったわけだけど、愛のベクトルの違う、恋愛だった。
それに今更気づいても、もう取り返しのつかないところまで来ていた。無くしたくはない、愛のこと、無くしたくはない。俺の夢に愛は要らない、だけど俺の人生に愛は必要だ。
それじゃ、ダメかな。
愛を、恋人として優遇する、投資する、それが今の俺には出来そうにない。今の、錯覚から覚めてしまった俺は、恋人、として、愛を見れない。だってあいつは、木ノ下愛だ、俺の幼馴染で、俺の親友で、俺の家族も同然で、俺の大事な、唯一無二の存在。
恋人、という枠にだけ、当てはめるには大きすぎるんだ、愛という人間は。
でも。愛がいないと寂しいから。
愛が、大事であることには変わりないから。
お前が望む俺をあげるよ。そしたらさぁ、多分、円滑にいくんじゃねぇかな。そしたら、お前は満足して、こんなギクシャクしたりしなくなるんじゃないか、とか、あと、また俺はそのうちお前に本気で恋をしたり、するんじゃないかって。思う。
いつか、お前に恋をする。
愛だけで恋人にはなれない。恋をしなければ。
だから愛、時間をかけて騙しても許してくれよ。ちゃんと好きになる、好きになるから、恋人として、お前だけを見るように。好きに、なるから。待って。
痛む腰を抑えながら、隣で眠ってる愛を起こさぬようにベッドからすり抜けるように脱出した。すげぇ疲労感、今日、ほんっと色々あったなぁ、じわり、と涙が滲む。
白いリュックからタバコを取り出そうとしたら、今日撮ったプリクラがひらり、と落ちた。
その小さい写真の中の俺は、素のままバカ笑いしていて、とても楽しそうだった。ぎゅ、と一度、プリクラを握りしめる。身じろぐ愛の、シーツの擦れる音に慌てて、プリクラをリュックに突っ込んだ。
起きない、よな。
タバコを取り出し、バルコニーに出る。携帯のライン、宮内から「今日は22時から二時間だからね、現地集合で」と、連絡が来ていた。22時まで、あと一時間とすこし。久々にしたセックスは、ただ、ただ、痛かった。心が、折れそうだった。
あんなにしてしまったのは俺の責任だ。ごめん、これからはちゃんとするから。
タバコに火をつけて、愛の部屋のバルコニーから俺の部屋のバルコニーを見る。愛はいつも、この景色の中で俺を見つめるんだな、と。焼き付けるように。
秋が来たから冬がくる。そして春がきたらもう東京だ。一緒に暮らし始めたら、きっと喧嘩もする、これからももっと。もっと。その度に泣いてちゃ、ダセェから。俺は自分の頬を抓った。
大丈夫だ。あしたからまた、元通りだ。俺と愛は恋人、恋人だから。
笑え。笑え、わらえ。
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