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◇◇◇
「やっと二人っきりになれたね!」
男性にエスコートされるがままにラブホテルに入ってしまった俊太郎は、その男性の言葉と満面の笑みでようやく身の危険を感じた。
「あ、あの! 俺、そんな気なくて……。すみません、ここの料金払うので――」
慌ててそう切り出すも、「あ〜、良いから良いから座って」と男性に押されてベッドに座らせられた。
「あの……俺、本当に知らない人と寝るの無理なんで――」
「だから喋るだけだって」
男性は自分もベッドに腰かけると逃さないようにと俊太郎の腕をしっかり掴んだ。この男性、細身の癖に力が強い。着痩せしているだけで、鍛えてあるようだ。俊太郎もそれなりに鍛えてはいる。しかし、男性の方が強いことは掴まれている腕から分かる。――きっとあざになっている。
戦ったら勝てないことを察した俊太郎は、何とか穏便に済ませるために今すぐこの部屋から出ることを諦めた。そして男性に向き合う。
「分かりました。話って何ですか?」
「未来と時間と問題と君の話」
まっすぐな目で男性はそう言った。真剣で落ち着いた口調からこの男性がいかに真面目に話しているかが分かった。
最初の印象通りやばそうな話で、俊太郎は少し距離を取ろうと体を引くが、すぐにグイッと腕を引っ張られて元の位置に戻される。結果、シーツに皺が寄っただけだ。
「まず簡単に述べると、この世界は滅ぶ」
男性は真剣な眼差しで俊太郎を見る。俊太郎はいよいよやばいと思って力いっぱい腕を引き、男性の手を引き剥がそうとするが、びくともしない。
「逃げないで良い子にしていてよ」
男性は俊太郎を引き寄せ、さらに近くからまっすぐ俊太郎の顔を見た。俊太郎は男性の力強さと話す内容の奇妙さが、ひたすらに怖くて男性から目が逸らせない。
「君はパラレルワールドって信じる?」
男性は突然優しい口調でそう問いかけた。
答えない俊太郎に、「パラレルワールドは少しズレた世界――少し時間がズレた世界なんだ」と勝手に話し始める。
「現在過去未来が全て同時に進行している。そう考える人は多い。さらにそこから世界が一本であると考えるか、複数存在すると考えるかで大きく二つの説に分かれる」
男性は空いている方の手の指を二本立てて見せた。俊太郎は早く終わって解放されることを待った。
「実際は複数存在していた。これは僕が証拠と会話したから紛れもない事実だ。一秒よりももっと短い単位分ズレた、たくさんの世界が同時に進行していることが分かっている。――それがパラレルワールドだ」
まるで映画の台詞のような現実味のないことを男性は語る。俊太郎はなんだかんだでその話を聞いてしまっていた。――SF映画を好む俊太郎には聞けない話ではなかったからだ。
「その時間のズレが小さいほどその世界同士はよく似る。何から何まで全く一緒であることがほとんどだ。離れていても――その距離がある程度であれば――だいたい同じストーリーを刻んでいくことになる。これが時間の話だ」
俊太郎の頭の中にパラパラ漫画が浮かぶ。俊太郎がコップに水を入れようと思った瞬間に、少し先を進む世界では俊太郎がコップを持っていて、さらに先の世界ではそれに水を注いでいるというような感じだろうか。
「しかし、この世界は周りと大きくズレてしまった。それが問題」
俊太郎がコップに水を入れようと思った瞬間に、少し先の世界ではコップを持っているのに、その少し先の世界でサッカーをしていたら確かにパラパラ漫画としては大問題だ。
登場の仕方からラブホでぶっ飛んだ話をするというところまで、その全てが怪しいこの男性を怖いと思っていたが、意外にも話は引き込まれるものだった。SF映画が好きじゃなかったらそんなことはなく、ただ男性への恐怖を感じている苦痛の時間なのかもしれない。しかし、俊太郎はたまたまそういったものが好きだったので男性の話を楽しんでいた。
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