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「……あの、荷が重いです」
この作り話を否定すればまた一から説明される気がしたし、かと言って適当に〈やります〉とは言えない雰囲気だった。――言ったら最後、絶対毎日ヒーローごっこだ。
「でも君しか居ないんだ、この仕事にピッタリなのが。大丈夫、相棒もいるから一人じゃないし……それに給料も出すよ」
給料が出るヒーローごっこは少し魅力的かもしれない。いくらなのかにもよるが、今の収入では自立できない。くだらないヒーローごっこに付き合ってそれなりのお金がもらえるのなら良い話かもしれない。――こんな胡散臭い話に若干の魅力を感じてしまうほど、俊太郎は人生に疲れ切っていた。
「……いくらですか?」
「とりあえず月給七十万でどう? 実際にどのくらい適性があるか分からないし」
「やります。スーパーマンでも魔法少女でも何でも」
最低賃金十八万、新卒の平均月収が二十万のこの時代に七十万は、俊太郎がよく考えもせずに飛びつくのに充分すぎる金額だった。
「本当に⁉︎ 自分で言うのも何だけど凄く怪しいよ? いいの?」
興奮した男性がぐいーっと顔を近づけて来た。ドアップに耐えられる顔ではないのに、無闇に顔を寄せるのは辞めて欲しい。俊太郎はさりげなく横に顔を背けた。
「そう言われると……やっぱり辞めようかな」
「いや待って! 大丈夫! 大丈夫な仕事だから! 俊太郎君にしか頼めないんだよ!」
「……何で名前知っているんですか?」
「あ〜それは……僕はほら過去も未来も見られるんだ。それで君のことを知ったってわけ」
男性の話は質問への明確な答えにはなっておらず、俊太郎は不審に思ったが、よく考えたらこの男性は会った時から今までずっと不審だった。今更だ。
「じゃあそれを信じるとして、何で俺じゃなければならないんですか?」
もういろいろと疲れてしまった俊太郎は、何故自分を知っているのかを追求することを諦めて、気になっていたことを聞いた。
「それは……本当に知りたい?」
男性は気まずそうに視線を逸らした。
「知りたいというか、知らないままでは受けられません」
「あらら、そりゃ大変だ」
一ミリも心の籠っていない言葉。喋りながらどうしようか考えているのが丸わかりだ。
「教えてくれないと何を言われても絶対にその仕事は受けません。絶対に」
そんな気になる反応をされたら、ちょっと気になっているだけだったことが凄く気になることになってしまう。
「う〜ん。怒らないで聞いてね。君は足が速いでしょ? それと予想される君の未来に適性があったんだ」
「もっと具体的に分かりやすく話してください」
「だからね。将来結婚はしないし子供も作らない、現在の職場に居なくても問題なくて将来的に大した職にもつけない。さらには歴史に残るような偉大なことをする予定もない……ってのが君の選ばれた理由」
酷い言われようだ。会って数分のこの男性に俊太郎の何が分かると言うのだろうか。それが男性の見えるという未来?
結婚や子供は確かに諦めていた。今の職場に数ヶ月前に入ったばかりのフリーターの俊太郎が居なくても問題が無いことも分かる。でも、この転職活動の悲しい結末や夢の無い未来をどうしてこの男性に決めつけられなければならないのか。
俊太郎は悔しくて涙が滲んだ。言い返せない自分に一番腹が立った。自分を庇えない自分が居た。
「……そんな失礼のこと言われて、〈はい、やります〉って言うと思いますか?」
せめてこの涙は目から溢すまい。残った僅かなプライドで俊太郎は男性を睨んだ。
「言うと思わないから言いたくなかったんだ」
男性は困った顔をして、「なのに君が言えって言った」と続けた。
「じゃあ、もう今度こそ話は終わりですね。離してください」
俊太郎は掴まれている両手を解放しろと催促するように少し動かした。
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