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二〇二一年四月二十六日
「今回のミッションの舞台は大学だ」
五十嵐はそう言いながらプレゼン用リモコンをポチッと押す。無駄に大きすぎるスクリーンにやたらと高画質な大学の写真が映し出される。俊太郎と健はプラネタリウムのように仰け反ってスクリーンを見なければならない。なぜこの手狭な部屋にこのサイズのスクリーンをつけたのだろう。
「あれ、これうちの大学じゃん」
健が言うと、「そう! 君が時々しか行っていない――小潮(こしお)大学の品川キャンパスだ」と、五十嵐が言った。五十嵐はだいたい一言多い。
「今回はこの小潮大学品川キャンパスの物語学の講義の妨害が目的だ」
パッと画面が変わり、気難しそうな中年男性と意志の弱そうな青年の写真が映った。
「ああ、物語学なら俺も取ったよ。へぇ、こんなおじさんが講義しているんだ。となりの男の子は誰?」
「もう月末だぞ。何で教授の顔を知らないんだよ……」
俊太郎は呆れた。自身が大学生の時は一回もサボらずに受けていたから、健のような不真面目な人間の行動は奇妙だった。
「一回も受けてないからに決まってんじゃん」
「流石ケン君! それでこそヒーローだよ!」
五十嵐は健に意味不明な拍手を送った。健は当然のようにそれを甘受する。
「やっぱり正反対な二人が組んで戦うってのが王道だよね。二人はフューチャーセイバーってね!」
五十嵐が一人で盛り上がっているのはいつものことなので程々のところで、俊太郎は「で、それはいつやるの?」と質問して五十嵐の妄想話を切る。
五十嵐は親指を立て、人差し指をこちらに向けて、他の指を握った。大好きな銃のポーズだ。
「いい質問だ! もちろん今日だよ」
もはや見慣れてきた五十嵐のウィンク。これを真正面から見ると任務が失敗する気がする。それくらい不吉だ。
「今日ってこれから⁉︎ 物語学の講義は四限だから、あと数時間しかないけど?」
慌てる健とは対照的に、五十嵐はパソコンの隣に置いてあった缶コーヒーを一口飲んだ。呑気な奴だ。
「そうとも、だから今から簡単に作戦を言うね。大丈夫大丈夫。今回のはかなりシンプルなミッションだからさ! あ、でも一つだけ難点があるんだよね」
五十嵐は剃り忘れている髭を左手で撫でながら、右手で寝癖頭を掻いた。
「クラッシャーがその講義取っているみたいなんだよね」
これは困ったと言うように五十嵐は肩をすぼめた。そんな安っぽいジェスチャーで流されるような難点ではない。俊太郎は、クラッシャーが居る空間での任務を〈シンプルなミッション〉と言う五十嵐の正気を疑った。
「拓未(たくみ)が居るのか〜」
隣に座る健は頭を抱えた。俊太郎も思わずこめかみを押さえた。
「まあ、それ以外はシンプルだからさ! 行けるよ!」
俊太郎は五十嵐を睨んだが、五十嵐はまた缶コーヒーを飲んでいてこちらを見ていない。そのすぐに飲み込まずに頬いっぱいにコーヒーを詰め込んでから少しずつ飲んでいく飲み方は腹立たしいから辞めて欲しかった。
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