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◇◇◇
今回の脱出場所はまたもや男子トイレだ。個室の中に小窓があり、ドアの隙間が少ない構造のトイレがあるらしい。そこでガムテープなどの小道具なしのお手軽身一つ脱出をする予定だ。
そのトイレは二階にあると五十嵐が言うので、二階に来たのだが、廊下で何やら言い争いをしている人が居たため、俊太郎はあと数メートルでトイレに到達するという所で足止めを食らっていた。
この時間の二階のこの廊下はひと気がないようで、他には誰も居ない。だからこそここのトイレが脱出場所なのかもしれないが、ひと気がないと言うことはあの言い争いは本来誰にも目撃されないものだと予想できる。ここで俊太郎が言い争う人たちに認識されるのは良くない。
廊下の曲がり角からこっそりと頭を覗かせて、争う人たちを見る。なんとそれは、これから失敗講義をしてもらう予定の教授と、健にメロメロになった助手の青年だった。
誰も周りに居ないと思っているのか、声を顰める気がない。少し離れたここでもよく聞こえる。
「さっき教員室に二人で入って来た男は誰だ!」
「あ、あれは生徒ですよ! 物語学の受講者です!」
「何故生徒と親しそうにしていた?」
「そんなことっ――」
どうやら健のせいで起きた言い争いのようだ。五十嵐は言っていなかったが、話の内容的にこの二人はデキている。教授と助手の写真を見た時に、助手と言うより愛人だなと思っていた俊太郎は大して驚かなかった。
この二人の恋愛事情なんてどうでも良かったが、そこを退いてくれないと脱出が出来ない。俊太郎はイヤホンに手を伸ばしかけたが、この静かな廊下でボタンを三回も押したら音で気づかれるかもしれないと思い、報告するのはやめた。
時間を守ることを諦め、向こうへ行くのを見てから脱出すれば良いと思い、会話が終わるのを待つことにした。
◇◇◇
講義開始のチャイムが鳴り、ようやく二人の言い争いは終わった。終戦と言うより休戦のようであったが、俊太郎には関係ない。
遠ざかって行くであろう足音を聞いていたが、おかしなことに足音は徐々に大きくなって来ていた。――まさかこちら側に来るとは思わなかった。
俊太郎は慌てて近くにあった教室に入る。もちろん空き教室で誰も居ない。そっと音を立てないようにドアを閉めてホッと一息吐いたところでカッと光が視界を占領する。そして体がふわりと浮き、すぐにズンッと沈む。
やってしまった。脱出に使う予定の場所ではないところでワープしてしまった。
俊太郎は慌てて周りの様子を伺う。どうやらここはラブホテルの浴室のようだ。ガラス張りのドアが何故か二つ。何と壁も全面ガラス張りだ。
その悪趣味な透明浴室はラブホテルの部屋のど真ん中に設置されており、入浴シーンを全方向から見ることが出来るようになっている。――空室で良かった。
俊太郎は首という首全てに身に付けていたチョーカーを外すと、浴室から出た。靴が少し濡れた。
イヤホンのボタンを長押しして、「五十嵐〜、間違って全然違うところにワープした。迎えに来て」と言った。
『ああ、うん。ラブホテルだね。とんでもないところに位置情報が移ってびっくりしたよ。僕よりケン君が近いからケン君に向かわすね。とりあえずその部屋は今さっき予約入れたから他の人は入って来ないよ、安心して』
五十嵐を呼びつけるのには全く何も感じないが、健にこんな所まで来てもらうのは申し訳ない。しかし、一人ではどうしようもないので来てもらうしかない。
二十歳の青年にこんな悪趣味な部屋……コーヒーを奢ったら赦してくれるだろうか。
『ラブホテルに飛んだの⁉︎ 俊太郎、大丈夫なの⁉︎』
健の心配した声が聞こえてきてますます申し訳なくなった。コーヒーはコーヒーでもゴテゴテとした名前のクソ高いコーヒーを奢ろうと決めた。
「大丈夫。ごめん、手間かけて」
今回は完全に俊太郎が足を引っ張った。自己嫌悪に陥りながら、やたら大きいベッドに横にボフンと体を投げ出した。
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