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二〇二〇年十二月二十八日
「ケン君、これが高橋 俊太郎君」
週明けにすぐ五十嵐に呼び出されて渋々五十嵐の豪邸に来てみれば、すでにそこにいた男の子に物のように紹介された。男の子は整った顔立ちに柔らかい雰囲気で、老若男女問わずモテそうだと思った。
「俺、大学二年生の佐々木 健。よろしく」
差し出された右手を不貞腐れたまま無視していると、五十嵐に右腕を掴まれ強制的に握手をさせられた。またあざが増える。
「シュン君はちょっと気難しくて天邪鬼だけど力でねじ伏せれば良いから。ケン君、仲良くしてあげてね」
とんでもない紹介をされてしまった。しかし、抵抗するとあざが増えるということを学んだ俊太郎は何も言わなかった。
「じゃあ二人ともこっちに来て」
歩き出した五十嵐に続いて、俊太郎と健は豪邸の廊下を進んだ。会話はない。
かなり歩いた先にあった異様に近未来的なドアに五十嵐が手を翳すとシューッと白いスモークが隙間から漏れ出た後にそれは開いた。なんともわざとらしくSFチックなドアだ。
二人とも特にそれについてはコメントをせずに中へ入れば、入り口のこだわりからは信じられないほど庶民的な規模の部屋だった。あれだけ凝ったドアの中にある六畳ほどの空間は異質で居心地が悪い。
「ここに座って」
二つちょこんと並んで置かれたパイプ椅子に、促されるまま俊太郎と健は座る。五十嵐はパソコンが置かれた教卓のような台のところに立った。
カチッと音がして、巨大すぎるスクリーンが天井から降りてくる。何故この部屋の規模でこのサイズなのか。巨大なスクリーンは圧迫感があり、部屋はより狭く感じられた。
健が「このスクリーン大きすぎるよ」と言うと、五十嵐は「大は小を兼ねる。大きい方がかっこいいし」と言った。
発言や行動に頭が悪いのが滲み出ている気がしてならない。本当に科学者なのだろうか。五十嵐に何か研究が出来るとはとても思えなかった。
「それじゃあ今日は座学だよ。僕はいきなり本番ってのがハラハラして良い展開を生むと思うんだけど、それはダメなんだってさ。だから順を追って説明するよ」
五十嵐は語り始めた。
「まず、勧誘した時に――ケン君は二十三日、シュン君は二十四日にざっくり伝えた通り、君たちには未来を救ってもらう」
俊太郎はこれ以上怪我をしたくなくて何も言わないだけだが、隣に座る健は何故このやばい五十嵐の話を普通に聞いているのだろうか。チラリと表情を盗み見ようとすれば、その視線を敏感に感じ取った健と目が合う。気付かれないと思っていた俊太郎は、思わずびくりと体を揺らして驚いた。
「あ! こら! よそ見しないの!」
五十嵐の声がして、慌てて五十嵐の方へ視線を戻す。痛いことは嫌いだ。
二人の視線が自分の元へ戻って来たことを確認すると五十嵐はまた話し始める。
「君たちの仕事は、この世界が他の世界と大きくズレたことによって、廃世界になってしまうのを阻止することなんだけど、そもそも何故ズレてしまったのかって話をまずはしたい」
五十嵐はプレゼン用リモコンをポチッと押した。パッとスクリーンに青年の写真が映し出される。映し出された瞬間に隣の健が、「あっ……拓未?」と呟いた。
「そう、彼は伊藤 拓未。ケン君の幼馴染で、ケン君と同じ大学に通っている」
「拓未は幼稚園から一緒なんだ。高校は別々のところに行ったんだけど、たまたま同じ大学の同じ学部で……入学式の時に再会したんだ」
健は俊太郎に向かって説明した。五十嵐は既に知っているはずだと判断したのだろう。俊太郎は要らない情報にしか思えなくて半分聞き流した。
「その伊藤君がこの世界を廃世界にする原因なんだ」
五十嵐は何でもないことのようにサラッとそう言った。
それを聞いた健は声を荒らげて、「拓未は悪いことをするような奴じゃない! 協調性や共感性が高いから友達も多いし!」と言う。五十嵐は慌てて、「伊藤君が悪者だなんて言っていないよ!」と叫んだ。
俊太郎は、六畳ほどの空間で二人とも叫ばないで欲しいと眉間に皺を寄せた。
「よく聞いて欲しい。伊藤君はこの世界の未来を壊している人物であるが、伊藤君にその自覚はない。そして、伊藤君は何をしても未来を壊してしまう。……これは彼の宿命だ」
パッとスクリーンの画像が変わる。動画なのだろう――真ん中に再生ボタンが表示された。
「この映像を見て欲しい」
特大スクリーンに先程の画像の青年――伊藤が、友人と思わしき人物たちと楽しそうに談笑している映像が流れ始めた。
「盗撮なんて悪趣味だ」
健は五十嵐を睨んだが、五十嵐は聞こえないふりをした。
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