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映像は進んで行った。途中、友人の一人が飲み物を溢し、それを拭くのを伊藤が手伝ってあげた。通りすがった女子に声をかけられて二、三世間話をした。
何の変哲もないつまらない映像が数分流れた。B級映画にならこんなシーンもあったなと俊太郎は欠伸を噛み殺す。
突然、映像が終わった。
「さて、今の映像の中の出来事の中に未来を壊す行為があったんだけど、どれだか分かったかな?」
五十嵐は俊太郎と健を交互に見た。
「……何でもない日常風景だった。拓未が未来を壊しているなんて冤罪だ」
健は地を這うような声で静かにそう言った。友人を悪人に仕立て上げられたことに激怒しているのは一目瞭然だった。
「シュン君は分かった?」
五十嵐は健の怒りには気付かないふりを決め込むことにしたようだ。流石にこれに素で気付いていないなんてことはないだろう。
「何もなかった。自分よりも一回りくらい年下の子を捕まえて悪人扱いは趣味が悪いじゃ済まされないと思うけど」
俊太郎は伊藤と面識がなかったし、赤の他人のことを気にするほど余裕のある人間ではないが、それなりの道徳心は持ち合わせていた。その最低限の道徳心が五十嵐の行動を不快だと言っている。
「あ〜、二人とも僕を悪者にしたいみたいだけど、残念ながら僕は善人な科学者だよ」
五十嵐はボリボリと頭を掻く。元々乱れていた髪が少し形状を変えた。
「実は今見てもらった伊藤君の全ての行動が未来を壊しているんだ。……彼は全く意図していないし、結果的にだけどね」
健がまた何か言おうと口を開くのが見えた。
しかし、それに被さるようにスクリーンが切り替わった。また真ん中に再生ボタンがある。動画のようだ。
「今度はこっちの映像を見てよ。これは3Dモデルで作成された映像で実写ではないよ」
とてもリアルな3Dモデルの伊藤が――少し違うところはあるが――同じように友人と談笑している映像が流れる。よく見ると背景も違う……別の大学だろうか。
「何で品川キャンパスじゃなくて岩槻キャンパスに居るんだ?」
隣の健が呟いたのを俊太郎は聞いた。別のキャンパスの同じ大学ということだろう。何故背景を変える必要があったのだろうか。
映像の中で、3Dモデルの伊藤は女の子に声をかけられることはなく、友人も飲み物を溢さなかった。特に何も起きず、時間いっぱいくだらない話をしていて映像は終わった。
「この映像は何だと思う?」
五十嵐は俊太郎と健に問うた。質問の意味や意図すら分からず、俊太郎は何も言わなかった。健も同じようだ。
「これは……同じ日、同じ時間の本来あるべき伊藤君の様子だ。本当はこうなるはずだったんだ。でもそうならなかった。何故か分かるかい?」
さっきから五十嵐はこちらが分からないと分かっていながら聞いてきている。俊太郎は苛つき始めていた。
「簡潔に話せよ。回りくどい」
手首の痛みも忘れて思わずそう言えば、五十嵐は目をまん丸くして、「ええ⁉︎ こういうのが科学者っぽくない?」とほざく。
やはりこれは五十嵐の妄想によるヒーローごっこなのだろうか。あまりに作り込まれた話に、少しずつまた耳を傾け始めていた自分を俊太郎は恥じた。
「じゃあ簡潔に言うけど! この世界には運命と言う名のシナリオがあって、それに沿ってみんな生きているんだ。そのシナリオを無視する……と言うよりはシナリオを渡されていない人物――クラッシャーが極々稀に生まれてしまう。それが伊藤君なんだ」
「よく聞くような運命論かな?」
健に安っぽくまとめられて、軽く流されたことをよく思わなかったらしい五十嵐はムスッとした。俊太郎の見立てが合っていれば――三十代なのに。
「確かに似ている部分はある。でも僕は何々論とか何々説とかそういった不確かな仮説ではなくて……事実を話しているんだ」
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