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俊太郎が考え付くよりも早く、健が「まさか拓未を殺せって俺たちに言うんじゃないよね……?」と言った。伊藤ではなく五十嵐をこの場で殺しそうな声色だった。
「違う違う。それで済むんだったら簡単だったんだけどね〜。……ああ、簡単ってのは言葉の綾ってやつだな、うん」
流石の五十嵐も殺人事件発生三秒前みたいな殺意には気付くようで、慌ててフォローした。健の殺意は収まる気配を見せないが、当然だろう。
「クラッシャーに死なれるのも困るんだ。本来の死ぬタイミングで死んでもらわないとどっちにしろ未来が壊れる。……それに死なない予定の人が死ぬのは実はかなりやばいんだ。逆も然りね」
つまり五十嵐に取って他人――ここでは主にクラッシャーである伊藤の命はどうでも良いが、未来のために死なれては困るということらしい。
とんでもないサイコパス野郎だ。今から小学校に何とか入れてもらって道徳の授業を受け直した方が良いと俊太郎は思った。それこそ世界を救う行為だろう、と。
「そんな考え方を持つ貴方が世界を救おうと思うとは到底思えないんだけど」
健は嫌悪感と未だ消えない殺意を露わにして言った。
五十嵐は「失礼な奴だな」とは言ったものの、反論は特にしなかった。
「ここまでの話で何か質問はある? 理解できないっていう意見は受け付けないよ。補足情報が欲しいってのだけ受け付け中!」
五十嵐は健の様子を大して気にしていないようだ。まあ――五十嵐の話が全て本当なら――どう足掻いても結果的に俊太郎も健も協力することになる未来が分かっているのだろう。それならば信用を得ようとしないこの不自然な態度も納得がいく。
ここまでの話や五十嵐の奇妙な行動で、俊太郎は九割九部、五十嵐の話は本当だとまた思い始めていた。
「特になさそうだから次に進むね。君たちにやってもらうお仕事は、クラッシャーの行動でズレた世界をなるべく元の状態に戻すことだ! 軌道修正ってやつだね!」
五十嵐お得意のウィンクは安売りしすぎてもうお腹いっぱいだ。もちろん初めから需要なんてない。
「イメージとしてはこうだよ」
スクリーンに地面にまっすぐ打ち付けられた杭のイラストが出てきた。杭には〈僕らの世界〉と書いてある。
「この杭はまっすぐなのが正解なんだ。まあ普通、杭って物はそういうもんだろ? それがクラッシャーによってこうなる」
またやたらリアルな3Dモデルの伊藤が大きなトンカチを持って右端から出てきた。凄く重そうだが、伊藤は軽々と肩に乗せて歩いている。そこでこの杭が凄く大きかったことを知る。伊藤の三倍はある。
伊藤はそのトンカチで杭の右の側面を殴った。コンコンっと言うように軽く叩くと杭は左に大きく傾いた。
「こうやってクラッシャーにとっては大したことのない行動によって世界は大きくズレるんだ。さあ、次は君たちの出番だよ」
今度は左端から3Dモデルの俊太郎と健が、伊藤が持つ物よりも小ぶりなトンカチを重そうに引きずって出てきた。身長差までしっかりと再現されているところに俊太郎は静かに苛立った。
俊太郎は成人男性の平均身長より少し――ほんの五センチほど低いのに対し、健は平均身長よりもほんの少しだけ――目測でたったの五から八センチほど高い。平均身長が百七十二センチなんてデータミスで、本当は百六十八センチ程度だと俊太郎は信じている。
3Dモデルの二人は引きずってきたトンカチを振り回して――いやトンカチに振り回されながら杭を左側から叩いた。たくさん叩くとようやく杭はまっすぐに戻り、3Dモデルの二人は汗を拭った。
「こういう風にクラッシャーがちょいっと小突いてズラした世界を君たちには戻してもらう」
五十嵐が説明をする後ろで、スクリーンの中の伊藤はまたトンカチで右側から杭を殴った。杭がズレる。3Dモデルの俊太郎と健は慌ててまたトンカチを振る。
「いたちごっこに見えるけど」
健が言った。俊太郎も嫌な予感がし始めていた。
「ああ、うんそうだね。でもこれは正解なイメージ映像ではなくて……実際はこうなんだ」
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