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どうやって止めようかと考えていると、五十嵐の声が思考を遮るように割って入ってきた。
「ケン君は準備が出来たかな? あの透明な四角い部屋に入ってくれる? あの部屋はこの実験用に作った部屋でドアが二つある。中に入ってドアを閉めたら、六メートル離れたあそこにある同じく透明な四角い部屋にワープするようになっている」
電話ボックスのようなサイズの透明な四角い部屋は確かにドアが二つある。
「いいよ。じゃあ入るね」
健は躊躇いもなくドアを開け、中に入った。ワープしようとしているのは健なのに俊太郎の心拍数が上がっていく。死ぬのを見るくらいなら死んだ方がマシだと思った。
「待って。俺が先にやる」
閉まりかけていたドアを無理やり開くと中から健を引っ張り出した。健は驚いて、「え⁉︎ なんで? 怖いなら俺の後にやったら良いじゃん」と言った。
俊太郎は急いでチョーカーを全て着けた。首と右手首と左手首と右足首と左足首。少し引っ張って取れないのを確認すると、透明な部屋に入った。
「……顔色悪いよ。俺が先にやるってば」
健はそう言うが、俊太郎はもう覚悟を決めていたので、無視してドアを閉めた。
カッと光が溢れる。見たこともないほどの光の量に耐えられず目をギュッと瞑る。壁越しに健が、「うわ⁉︎ 眩しい!」と言うのが聞こえた。
次の瞬間、ふわっと体が浮くのを感じ、無意識に何か掴まれるものを探して手を壁に伸ばした。そのタイミングでズンッと重力を感じて、思わず膝をつく。瞼の隙間から漏れる光もそのタイミングで無くなったので恐る恐る目を開ければ、目の前にいたはずの健が離れた位置にある空の透明な部屋の前に居るのが見えた。
周りを見回せば健ではなく俊太郎が確かに別の場所に移動したのだということが分かった。緊張感から解放され脚の力が抜けて立てない俊太郎に拍手をしながら五十嵐が近付いてきた。
「やったね! ワープ成功だよ! 臆病なシュン君には難しいかと思っていたけど良かった良かった」
五十嵐はドアを開けると俊太郎の腕を掴み、雑に引っ張り出してそこら辺の床に放った。硬い床に骨が当たる。痛い。
「……すっごい! 本当にワープした!」
呆然と佇んでいた健はそう叫ぶとこちらに走って来ようとしたが、五十嵐が「ケン君はこっちにワープしてきてくれるかな。ほら、こっちのドア閉めるし」と言ってそれを止める。
「分かった!」
健は元気良くそう返事をすると、透明な部屋に入りドアを閉めた。まるでトイレにでも入るかのような迷いのない動きでドアを閉めるので、それを見た俊太郎は気が合いそうにないと思った。
向こうの透明な部屋が中で花火でも上げたのかというくらいカッと光った。俊太郎は慌てて自分がさっき出てきた方の透明な部屋を見た。
こちらもカッと光り、ドンッと音がした。光が初めから無かったようにスッと消えると転んで壁に頭を打ち付けている健がそこに居た。
「痛っ! 何これ、何も見えないし最後重い!」
文句を言いながらもすぐに立ち上がった健は自分でドアを開けて部屋から出てきた。俊太郎は図太いやつと思いながら後頭部をさする健を見た。
「これでケン君も大丈夫だね!」
五十嵐はスキップして巨大モニターの方へ行ってしまった。未だ地面に座っている俊太郎を健は抱き上げて立たせた。俊太郎は眉間に皺を寄せたし、――おそらく善意でやってくれたのに――お礼を言わなかったが、健は気にしてないようだった。
「シュン君〜! ケン君〜! 次はこれ! このイヤホン着けてみて!」
遠くから五十嵐が叫んで呼ぶので俊太郎と健はそっちへ向かう。俊太郎は隣を歩く健があまりにも自分と違うので、組むことに不安を感じていた。本当に自分たちに世界が救えるのかという不安や五十嵐への未だ消えない不信感も混ざって、足取りは重くなる。
徐々に歩みが遅くなったはずの俊太郎を、置いて行くことなく、変わらず健が隣を歩いていることの不自然さに考え事中の俊太郎は気付かなかった。
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