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二〇二一年五月十日
「ここが幽界ランドか〜、初めて来るよ」
健はキョロキョロと辺りを見回しながら言った。
「あれ? 千葉に住んでいるんだっけ?」
「いや、東京だよ。でも遊園地と言えば歌の国のでしょ?」
確かに国内だけでなく海外からの観光客も多く、メジャーなのは通称歌の国と呼ばれる遊園地で間違いなかった。それでもここ――幽界ランドもテレビ広告を打っているし、そこそこの知名度だと思っていた。
「俊太郎は幽界ランドに来たことあるの?」
「あるよ。小学生の頃に」
「じゃああんまり詳しくはないんだ? 俺と大して変わらないじゃん」
俊太郎にはそんなことを競うつもりはなかったが、健はそう言った。マウントを取っているように聞こえたのだろうか。家族以外では、アルバイト先で客相手にしか喋ることない日々を送っていた俊太郎は、自身のコミュニケーション力に自信がない。
「俺、チケット買ってくるね! 俊太郎はここで待っていて」
そんなことを考えているうちに健はそう言ってチケット売り場へ走って行ってしまった。俊太郎は小さくなっていく健の後ろ姿を見ながら、なんだかデートみたいだなと思った。
もちろん任務で来ているわけだが、俊太郎は恋愛とは無縁な自身の人生の中でこれが一番デートに近い経験になるような気がしてならなかった。遊園地の中で行うことはデートとはほど遠いが、遊園地の中に入るまではデートっぽい。
自分が変な顔をしていないか不安になった俊太郎は、両手で頬を触る。大丈夫、不気味なほど無表情だ。……ちょっとは笑った方が自然かもしれない。ここは遊園地なのだし。
ポカポカとした日差しに包まれながら辺りを見回せば、数組の客しか遊園地の入り口であるゲート前には居ない。平日の真っ昼間、しかもゴールデンウィークが終わってその後の土日も終わった平日だ。みんな金欠なのだろう。
「お待たせ! 今日は空いているね」
健にチケットを手渡される。渡されたチケットが思っていた形状と違い、俊太郎は「これフリーパスじゃないか?」と言った。腕に巻くタイプがフリーパスで、入場券は普通の紙切れのはずだ。
「そうだよ」
「え……、今日は任務で来ているからアトラクションは脱出の時に使うの以外、何も乗れないのは分かっているよな?」
「うん」
じゃあ何故フリーパスを買ったのか。入場券で充分ではないだろうか。入場券が千八百円なのに対し、フリーパスは五千八百円もする。遊園地内にある券売機でアトラクションに乗る券を買った方が安い。
「だって、男二人で入場券だけって怪しくない? 乗り物たくさん乗りに来ましたって感じにしたくて……。どうせこれは五十嵐の財布だし」
健は悪趣味な柄の折りたたみ財布を放り投げながら言った。健がキャッチに失敗して ――特注だと自慢していた――財布は地面に落ちた。
「それもそうだな」
地面に落ちた財布を二人で見下ろしながら俊太郎は言った。
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