アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
5-4
-
◇◇◇
『悪は勝つのダーハッハッ!』
最後は多少無理矢理な展開になったが、お決まりの決め台詞を言わせて十五時ジャストにヒーローショーは終了した。
そこでようやく司会の女性が息を吹き返したかのように動き始める。
『あ、アクヤクダーありがとう! みんなアクヤクダーにお礼を――』
『うるさいぞ!』
もう良いのに健はまだスマートフォンをいじってショーをぶち壊し続ける。俊太郎は健の脇腹を小突いた。
「やめろ。オーバーキルだ」
「……はーい」
不服そうに口を尖らせながらも返事をした健は、名残り惜しそうにしながらもアプリを閉じた。
最悪で最低なショーは子供達の拍手喝采で終わっていった。着ぐるみはヘロヘロで千鳥足だったが、子供達にはウケた。司会の女性はショーの開始時より五歳は老けて見えた。
俊太郎と健は月の広場を離れ、この遊園地の看板ジェットコースターの方へ歩いて行く。今回、音声機材を細工するのに使った小道具は、こちらがアプリを消せば何の機能も持たない無駄なパーツに成り下がるだけなので回収の必要はない。
普段は大人気で、そこそこ待ち時間のある看板ジェットコースターだが、さすがゴールデンウィーク明けの平日――二組しか並んでいない。待ち時間はないようだ。
「うわ〜、空いている! 乗りたい!」
並び列に混じろうとする健の腕を引き、止める。
「ダメ。もう時間だ」
時間じゃなくても乗れないが、何処の誰に何を聞かれているか分からない。人が多いところでは余計なことは言わない方が良い。
「せっかく来たのに……。じゃあチュロス食べたい」
通りすがったカップルが食べているチュロスを見て、健は言った。全てダメだと分かっているはずなのにしつこい健を俊太郎は睨む。
「わかったよ〜。つまんないの……。じゃあ行こ」
〈つまらない〉という言葉に俊太郎は思わず立ち止まる。健がつまらないと言っているのは任務中でやりたいことが何も出来ないからで、俊太郎との遊園地がつまらないと言っているわけではないと頭では分かっている。それでも勝手に心が、まるで傷付いたみたいにズキリと傷んだ。
何でもないはずなんだ。仕事仲間と仕事中に一緒に居るだけ。それだけだから仕事中に関係ないことで傷付いたり、デートのようだと浮かれたりはしない。……そうあるべきなんだ。
立ち止まり地面を見つめる俊太郎の顔を覗き込み、健は「どうしたの?」と聞いた。
俊太郎は何と言ったら大したことがないと気にされないのか、その最適解が分からずに何も言えない。結果、黙って立ち尽くすことになった。
「……ごめん。もうくだらないこと言わないからさ。こんなことで機嫌を損ねないでよ」
〈面倒くさい〉と最後に付いている気がした。音にならない声を聞いた気がした。
俊太郎は健の目を見た。やはり聞こえないはずの声は正しかったと確信した。――実のところどうなのかは健本人にしか分からないのだが。
「別にそういうわけじゃない。……俺もチュロス食べたいと思っただけ」
俊太郎は歩き始めながらそう言った。チュロスは好きだ。今はそれどころではないが、嘘を吐く時は一滴で良いから〈本当〉を混ぜるべきだと俊太郎は思っていた。
「俊太郎、チュロス好きなんだ。何か意外。シナモンとチョコだったらどっちが好き? 俺はね――」
話がチュロスに逸れたことにホッとした。健にはバレないようにこっそりと。
今はこちらが喋るといろいろとボロが出そうなので、健に喋っておいてもらおうと俊太郎は思った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
25 / 64