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二〇二一年一月四日
「ここがトレーニングルームだよ!」
新年早々三ヶ日が終わるや否や俊太郎と健は五十嵐に呼び出され、トレーニングルームとやらを見せられていた。
「凄い! スポーツジムじゃん!」
朝九時だと言うのに、健はテンションが高い。俊太郎は三ヶ日を寝て過ごしていた為、まだ脳が寝ている。
「君たちにはここで体を鍛えたり、ヒーローに必要な技術を身につけたりしてもらう!」
五十嵐は得意げだ。
その自慢のトレーニングルームは、前日案内された道具置き場と同じくらいの規模で、巨大アスレチックのようなものまである。机や椅子は休憩用としても、フェンスやシャンデリアなどは何故あるのか分からない。
「あそこにあるガラス張りの小部屋は、低酸素にも出来るようになっている。見てわかるように中にはフィットネスバイクやバイセプスカールマシンなどがある。好きに使ってね」
ガラス張りの小部屋の中には所狭しとマシンが並べられている。こいつらのせいで五十嵐の腕はあざ製造マシンと化したのかと、俊太郎は密かにそれらを睨んだ。
「あとはまあいろいろあるんだけど……見て分かるだろ? 君たちはジムに通って鍛えているわけだし。シュン君は金欠で最近は行ってなかっただろうけど」
そこまで言うならはっきりと無職と言ってもらって構わない。この前までアルバイトをしていたのでフリーターであったが、その前の退職後二ヶ月は無職だった。職安に行ったり鬱々と寝込んだりして過ごしていた。
「金欠なんだ?」
健が純粋な目で聞いてきた。察しの悪いやつだ。
「そうじゃなかったらこんな怪しい仕事をやらない」
夢と希望に溢れる就活前の大学生に、わざわざ絶望的な将来像を与えることもない。俊太郎は誤魔化した。……最終的には脅されて引き受けたことも伏せた。
健は真面目な顔で、「確かに」と言った。
そんな健の顔を見ていて、俊太郎はふと、そう言えば健はどうしてこの仕事を受けたのだろうかと思った。五十嵐に対する態度を見るに脅されたわけではなさそうだ。気になったが、俊太郎は仲良くなったわけでもない相手にすぐに聞くようなタイプではない。
「シュン君、ケン君! こっちも見て! こっちにはさまざまなテーブルや椅子、フェンスや電信柱などなど! あちこちにありそうな物をかき集めたんだ! ここでパルクールの練習をしてよ」
何の為にあるのか分からなかった物たちは全てパルクール用だった。
「パルクールって何?」
健は首を傾げて、「フラッシュモブみたいな?」と言った。そんなわけがない。
「ケン君はパルクールを知らないのか! パルクールって言うのは、主に街中で行われるスポーツだよ。壁を走ったりフェンスを飛び越えたり、屋根の上を跳ねたりするんだ」
五十嵐が健に説明する。その説明だとまるで忍者のようだと俊太郎は思ったが口は出さない。出したらきっと手が出てくる。
「へ〜、楽しそう」
よく分かってなさそうな健が適当なリアクションを取る。
「シュン君が海外に行った時にやったことがあるみたいだから見せてもらえば?」
「絶対に嫌だ」
人に見せたくってやっていたわけではないし、何より最後にやったのが大学四年生の夏休みだから――一年以上も前で危険すぎる。
「じゃあ動画サイトに転がっている動画でも見て自己流でやってよ。任務できっと必要になる」
意外にも五十嵐はすんなりと引き下がった。言ってみただけで本当にやらせる気はなかったのだろうか。読めない奴だ。
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