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◇◇◇
道具置き場に着いた頃には俊太郎もそこそこ覚醒しており、二人は手際良くいつものチョーカーを着ける。
移動中の五十嵐の話をまとめると、〈未来からタイムトラベラーが来たから回収しろ〉ということだった。タイムトラベラーが本当に居るということに現実味を感じないが、他の時間軸の人との接触と考えるとなかなか危険な仕事に思えた。
真剣な顔の俊太郎と対照的に、楽しそうなにへら笑いを隠せない健に五十嵐は釘を刺す。
「良いかい? 特にケン君。今回、回収してもらうのはタイムトラベラーだ。しかも他の廃世界から来たと思われる。廃世界が未知数で予測不可能なのは以前話した通り! 我々とは違った進化を遂げている可能性は高い」
俊太郎よりも早くチョーカーを装着し終えた健はイヤホンを左耳に着けながら、「はいはい」と適当な相槌を打った。早くタイムトラベラーに会いたくて仕方ないようだ。
「……それってトラック持ち上げられるとか、体が透けるとかの可能性もある?」
遅れてチョーカーを着け終えた俊太郎は五十嵐に質問した。
「もちろんあるよ。他の生き物だと自分の体重の何倍もの重さの物を持ち上げられるのや、体の色を変えて背景に擬態できるのが居るだろう? 人間だって、そういう進化をする可能性はあるよ」
健はそれでも危険性がよく分かっていないようで、「スーパーヒーローじゃん」とますます興奮している。俊太郎はそれを冷めた目で見ていたが、心の中ではそんな健を可愛いと思っていた。
五十嵐はやれやれと首を振ると、何か小さな紙を俊太郎と健に手渡した。受け取って見てみれば、その紙には隠し撮りなのだろう ――どこか別の場所を見ている男性の写真が印刷されていた。それにこの写真の粗さは ――。
「防犯カメラの映像から切り取ったのか」
「うん、そう。その男がタイムトラベラーXだよ」
何でもないことのようにさらっと五十嵐は答える。
俊太郎はその写真をまじまじとよく見た。粗い写真でも分かるほどの美形。儚げに遠くを眺める男性は浮世離れした美しさで少し怖い。こちらを見ている写真ではなくて良かったと俊太郎は思った。
「こんなことを言うのは失礼だけどさ。……綺麗すぎてなんか不気味だね」
そう言う健の顔色は心なしか先ほどよりも悪い。興奮は収まったようだった。
俊太郎が「この人の名前は?」と五十嵐に聞くと、「分からない」と返ってきた。
「今までは政府のデータを拝借して個人を特定していたんだ。……よくある陰謀説みたいで申し訳ないんだけど、実は僕らはマイナンバーで政府に管理されているんだ。街中にある防犯カメラとマイナンバーで、政府は誰がどこに居るかを常に監視している」
だから五十嵐邸を出る前にチョーカーを着けておかなければならないのかと、俊太郎は納得した。いかに非現実的な話でも信じられる。原理も不明なワープが可能なのだ。もう何でもアリだと思えた。
「今回もその政府のデータを拝借すれば良かったんじゃないのか?」
「いや、拝借したんだけど……。この男はマイナンバーも戸籍も無いんだ。つまりこの世界には存在しない人物なんだよ」
五十嵐はお手上げのジェスチャーをした。洋画被れめ。
ここで俊太郎は、この男性が廃世界から来たタイムトラベラーであることを思い出す。ズレすぎると世界を構成するキャストも変わってしまうのだ。Xはそんな存在なのだろう。ぞっとする。
「シュン君とケン君はこれを持って行って。今日は何が起こるか分からないからいろいろ詰めておいたよ。必要に応じて使って」
五十嵐に手渡されたリュックサックはそこそこの重さで、走ることなど考えられていないことが分かる。隣の健はさっそくチャックを開けて中身を物色している。
「今回はいつも以上にイヤホンが大事だから、スマホで電話をするフリでもしてそっちからも状況報告をよろしくね」
「わかった」
「あと、たぶん政府もXの存在に気付いているも思う。ここは日本でおそらく怪事件に慣れていないから行動は遅いと思うけど……X以外にも気を付けてね」
五十嵐は俊太郎と健の背中をポンと叩いて送り出した。
初任務の時くらい煩い心臓を左手で押さえつけながら、俊太郎は健と顔を見合わせた。――酷い顔色だった。
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