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◇◇◇
いつものように電車で移動した俊太郎と健は中央改札から出た。何故かここ一年くらい電車は窓を数センチメートル開けていることが多いため、電車内でワープしてしまうことはない。
「なんで電車の窓、いつも開いているんだろう。今は春だから良いけど、去年は夏も冬も開いていたよね?」
健が腕時計で時刻を確認しながら俊太郎に話しかけた。
「五十嵐が言うには他の世界との兼ね合いらしいけど……待った。もうこういう話はしない方が良いかも。X探しに来ている奴らに見つかると面倒臭い」
俊太郎はさり気なく辺りを見回す。自衛隊も警察も目の届く範囲には居ないが、そんな分かりやすい見た目でタイムトラベラー狩りには来ないだろう。聞かれていないことを願うしかない。
健も駅の出口を探すふりをしてキョロキョロとしている。
『二人共、今Xはムーンライトタウンに居る。すぐに向かってくれ』
左耳のイヤホンから五十嵐の声がする。健が俊太郎の方を見ながら、イヤホンのボタンを長押しした。そして、「わかった」と言った。今回はこうやって俊太郎と健で会話をするふりをして、五十嵐と話す。
ムーンライトタウンは、この街を代表する建物の一つで、いろいろなテナントが入っているショッピングモールだ。ショッピングモールと言っても、その建物の中には小規模な水族館や屋内型遊園地まで入っているとても大きな施設だ。
随分と厄介やところに居る。もしかしたら何者かが来ることを予期して複雑な建物に逃げ込んだのかもしれない。警戒されている可能性を頭に入れておくことにした。
◇◇◇
「目的の店があるのは何階だったっけ?」
ムーンライトタウンに着いた俊太郎は、イヤホンのボタンを押しながら健に向かってそう言う。
『地下三階にX。Xは先ほどから常に移動している。周りを警戒するような動きも見せているから慎重に頼む』
五十嵐の指示を聞いた後、健が「地下三階だよ」と会話を成立させる。
二人はイヤホンのボタンをカチッと押した。
「エスカレーターで下るか」
俊太郎は天井から吊り下がる案内を見て、エスカレーターのある方へ歩く。運良く近くにあったそれに乗り、俊太郎と健は下って行く。
「俊太郎って目良い?」
後ろに立つ健が話しかけてくる。エスカレーターの段差の分、いつもよりも身長差が開く。俊太郎は健を見上げた。
「視力は良いか悪いかで言ったら良くはない。細かい作業をする時だけ眼鏡をかければいいと思っていたけど、今の仕事を始めてからはコンタクトにした」
そう話すとズイッと健の顔が近付いて来た。思わず仰け反って距離を取りそうになるが、エスカレーターに乗っていることを思い出し、踏み止まる。落ちたら洒落にならない。
「見ただけじゃ分からないね」
人の気も知らない健は、呑気にそう言いながら至近距離でまじまじと俊太郎の目を見つめる。耐えられずに顔を逸らして体の向きも元に戻す。ちょうど地下一階に着くところだったので、そこまで不自然な動きではなくなった。
無表情の下でホッとした俊太郎は、エスカレーターを乗り換えてさらに下を目指す。健も後に続く。
「健は目良いのか?」
大して興味もないが無言の時間は嫌なので聞けば、「良いよ! 遠くまで良く見える」と返ってきた。
「じゃあ探し物は健に任せた」
俊太郎は振り返ると、健の目をまっすぐ見てそう言った。健はキョトンとしていたが、数秒遅れて意味を理解したようで、にやりと笑った。
「任せて」
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