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地下二階に着き、またエスカレーターを乗り換えようとした時、イヤホンから五十嵐の声が入っている。
『シュン、ケン! Xが地下二階に移動した』
慌てて俊太郎はエスカレーターに乗せかけていた足を引く。すぐ後ろにいた健にぶつかりながらその場に止まった。
「やべ、俺この階で見たい物があったんだった」
取ってつけたような台詞だが何も無いよりはマシだろう。例え周りの人に怪しまれていたとしても、こんな事で取り乱している場合ではないのでマシだったことにする。
「早く言ってよ」
健が横に避けながら言った。イヤホンのボタンは押していないが五十嵐向けの文句だ。
少し後ろでエスカレーターに乗っていた人達は少し迷惑そうな顔で俊太郎達をチラリと見てから地下三階行きのエスカレーターに乗って行った。政府の関係者では無さそうだ。俊太郎はホッと一息つく。
そこで思い出してイヤホンを一回カチリと押していると、健に腕をぐいっと掴まれ、引き寄せられた。何事かと振り返れば、健はどこか遠くを見ながら、「居た」とだけ言った。
慌てて俊太郎も健の視線の先を見る。かなり先の人混みの中を颯爽と歩くその姿は絵画から抜け出して来たようで、周りに混じれず浮いていた。百八十センチメートルを超えているのだろう――周りの人達よりも頭一つ抜けているので、サラリとしたアッシュグレーの髪がよく見える。
あんなに目立っていたら政府側の人間にもすぐに見つかるだろう。急いで先に捕獲しなければならない。
俊太郎はイヤホンのボタンを押しながら「あの店を見たらお茶しよう」と言った。
『発見了解。気をつけて』
発見した時の合図が飛ばない程度には冷静でいられていることに、俊太郎は安心した。今回もポカは出来ない。
呆然とXを見つめる健の脇腹に軽くエルボーを喰らわせて正気に戻す。
「行くぞ」
「……ああ、うん」
健の状態は不安だが、早く取り掛からないと不味い。こうしている間にもムーンライトタウンの防犯カメラにXは映り続けている。それに周りを歩く老若男女全ての記憶に刻まれていってしまっていた。――あまりの美貌にすれ違った人が全員振り返るなんて初めて見る光景だ。
俊太郎と健は怪しまれない程度の早歩きでXとの距離を詰める。しかし向こうも早歩きをしているようで、なかなか距離が縮まらない。
痺れを切らした健が人混みの間を縫って走り出す。俊太郎は止めようと手を伸ばしたが、Xを注視していた為、気付くのが遅れた。その手は空を切る。
健が躱しそびれてぶつかった女子高生が、「痛ぁい」と文句を言った。その声でXが振り向いた。凄い勢いでこちらを見た顔は強張っていて、常に警戒していたのだと分かった。
俊太郎は早歩きを続けていたので人混みに紛れ込めたが、走っていた健はXに見つかる。健を見るや否やXは走り出した。健もXを追って走って行ってしまった。
Xや政府に認識されないことが最優先だと判断した俊太郎は、その場で人の流れに乗ってゆったりと歩いた。その結果、Xも健も見失ってしまったが、防犯カメラがある所に居る限りは五十嵐がすぐに発見するだろう。
俊太郎は近くにあったベンチに腰掛けるとリュックサックからスマートフォンを取り出した。左耳に当てながら親指でイヤホンのボタンを長押しした。
「もしもし? 迷ったんだけど、何処で合流すれば良い?」
『シュンはとりあえずウィンドウショッピングでもして周りに溶け込んでおいて。ケンは……やってくれたね』
息を切らした健が小さな声で、『……ごめん』と言うのが聞こえた。どうやら捕り逃したようだ。
『ケンは一階を巡回していてくれるかな? その建物は一階からじゃ無いと外に出られない。Xをムーンライトタウンに閉じ込めたい。そこにはたくさん防犯カメラがあって見つけやすい』
俊太郎はイヤホンのボタンを一回押した。そして、どこにも繋がっていないスマートフォンに、「分かった。じゃあ時間潰しているわ」と吹き込んで、電話を切るふりをした。
健がXに認知されてしまった以上、このX捕獲作戦は俊太郎がメインで動く事になる。あまりの責任の重さに吐き気を催したが、呑気に吐いている場合じゃない。三秒だけ目を閉じて心を落ち着かせた。
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