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俊太郎はリビングとドア一枚で繋がる部屋のドアを開けた。そこに居た部屋主がびくりと肩を震わせる。俊太郎と同じくらいの年齢の男性が、ベッドに腰掛けて雑誌を逆さまに持っていた。――ベタな奴だ。
「これ謝礼。早めに使ってくれると助かる。貴方も出どころが不透明なお金をいつまでも取っておくわけにはいかないでしょ?」
俊太郎はリュックサックから出した、そこそこ分厚い封筒を部屋主に投げ渡した。男性が受け取り、中身を確認し終えたところで、「じゃあ約束通り玄関のドアを開けてくれる?」と言った。
男性は無言で立ち上がると、ドアを閉まらないように片手で押さえている俊太郎の横を通ってリビングにあるもう一つのドアを開けた。そして、その先の廊下を歩き、玄関のドアも開け放つと、「どうぞ」と言った。
どこから来たのか、どうやって来たのかなどの余計な詮索はしない。賢い選択だと俊太郎は思った。
Xに「行くぞ」と声をかけて、まだぼうっとしているXを連れて俊太郎は部屋を出た。
◇◇◇
「ここが道具置き場さ」
五十嵐が得意げに紹介するとXは「個人でこんな規模のことが出来るなんて――信じられない」と驚いて見せた。
五十嵐はふんぞり返りすぎてブリッジをしている。ここまで来るとやばすぎて触れられない。俊太郎と健はブリッジ五十嵐から目を逸らした。
「この道具も君が作ったの?」
五十嵐邸に着くまで着けていたチョーカーを握りしめてXは五十嵐に尋ねる。――道中で顔を覚えられない為に、チョーカーは外せなかったのだ。帰りに乗ったタクシーの窓はワープ防止で全開にしなければならなかった。
五十嵐は「そうだよ」と短く答えた。
Xは少し考えるような素振りを見せた後に、「僕は元の世界に帰れるのかな」と呟いた。独り言のようでも、五十嵐への質問のようでもあった。
五十嵐はブリッジをやめて立ち上がった。
「実はこの世界にもクラッシャーが居て、こうしている間にも廃世界に向かっているんだ。だから未来は常に変動していて……君が戻れるかは分からない」
五十嵐の答えを聞いてXは、「そうか……。まあでも戻っても世界と一緒に滅ぶだけだからな」と言った。
どう反応したものかと俊太郎が考えあぐねていると、五十嵐がいつもの調子で空気を無視し、「元の世界に未練が無いのなら良かった」と明るく笑った。
俊太郎と健はげんなりした顔を見合わせる。Xは怒ってはいないものの、五十嵐という生き物に困惑しているようだった。俊太郎はどうフォローを入れたら良いのかと頭を抱えた。そんな中、五十嵐は全てを無視して自分のペースで続ける。
「ちょうど良かったよ、助手が欲しかったんだ。もちろんタダ働きとは言わないよ。衣食住を保証するし、僕にもしものことがあったら全部君に譲るよ。さらに今なら偽装マイナンバーと戸籍をプレゼント!」
圧倒されるXに詰め寄ると五十嵐は、「悪い話じゃないだろう?」と悪い顔で囁いた。
Xは数歩下がって五十嵐から距離を取ると、左手を口元に当てて考え込む。俊太郎はその様子をただ見ていた。手持ち無沙汰になった健が俊太郎の髪をいじるのを好きにさせながら。
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