アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
8-2
-
◇◇◇
「やあ、隣に良いかな?」
こちらから探すまでもなかった。ターゲットの中年男性は、自分から健に声をかけてきた。
男性が来るのをカウンターに座って待つ間に五十嵐の金で一杯飲んでいた健は、楽勝だなと思わず笑みを浮かべる。男性の顔が赤らんだ。
「どうぞ。一人で来ていて……暇だったので」
健の右隣の席に男性は腰をかけ、テーブルの上に腕を乗せた。左手に高そうな時計が光る。
「彼と同じものを」
男性はバーテンダーに注文すると、健の方を見た。その目には分かりやすいほどの欲情が宿っている。今すぐベッドに誘いたそうだが、まだダメだ。五十嵐の指示がない。
健もバーテンダーに「俺も同じものをもう一杯」と注文して男性から目を逸らす。見つめ合うのはまだ早い。
バーテンダーは小さく返事をし、早速作り始めようとした。しかし、そこで別のバーテンダーに声をかけられる。――俊太郎が扮装する偽バーテンダーだ。
「すまない。向こうのお客様の相手をしてくれないか? 君を指名している」
カウンターの端に一人で座る男性を、俊太郎は視線で指した。――五十嵐だ。
酒を飲みながら複雑な計算が出来るなんて信じられないが、今回は五十嵐も任務に実行者として参加している。五十嵐曰くスマートフォン一つあれば充分なんだとか。今更五十嵐の唱える時間や未来の話を疑いたくはないが……とても怪しい。
「申し訳ございません、お客様。私が変わらせていただいてもよろしいでしょうか?」
俊太郎が惜しみない営業スマイルを見せる。いつもの仏頂面の五倍は可愛い。何故普段は無愛想なのか。
「ああ、構わないよ。……君みたいな可愛い子に作ってもらえるなんて最高だよ。これを二つ頼むよ」
男性の俊太郎を見る目にも欲情がじんわりと滲む。健は心の中で慌てた。嘘だろ、勘弁してくれよと。
「ありがとうございます。かしこまりました」
俊太郎は従業員よろしくニコニコと笑っている。今のところはまだ大丈夫そうだ。頼むからターゲットを殴らないでくれと俊太郎を見る。俊太郎はニコニコ笑顔を張り付けていて何を考えているのか全く分からなかった。
「ねぇ、俺が隣に居るのによそ見ですか? ……妬いちゃうな」
テーブルに置かれた男性の指を誘うように撫でながら、少し距離を縮める。男性は弾かれたように健の方を見た。近くで急に動かれると香水に隠されていた加齢臭が少し臭う。
「君はいやらしいな……」
男性は健の体を舐めるように見た。もっとよく見ろと言わんばかりに健はターゲットに向き合う。ターゲットの為にストレッチ素材のシルエットがくっきり浮き出るスーツを着てきたのだ。
誘うように体を少しくねらせれば、男性は生唾をごくりと飲んだ。良い感じに男性の興味が健に戻って来たが、今すぐベッドへは行けないので勿体ぶるように健は「お話してくれません?」と言った。
男性は健の体に伸ばしかけていた手を慌ててテーブルの上に戻した。
「良いよ。僕も君と話がしたいね」
したいのは話ではないだろうに、男性はそう言った。健はにっこりと笑った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
41 / 64