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◇◇◇
「カルーア・ミルクを頼むよ。ミルクは……君のでね」
待てど暮らせど五十嵐の指示が出ないせいで大変なことになっていた。ターゲットの男性の興味は完全に俊太郎に行き、酒が回って来たのか人目も憚らずセクハラをしている。
ここまでは何とか愛想笑いとよく聞こえないふりで耐えていた俊太郎だったが、トドメのセクハラ発言でフリーズした。きっと全身鳥肌だ。
「ああ、良いね、その反応。慣れていない感じがいいよ。……この後、部屋にどうかな?」
起こることを危惧していた事態が今まさに起きてしまった。俊太郎が予想外の事態に弱いことは、この数ヶ月の任務を共にしている健には分かっている。助け舟を出さなければならない。
「ちょっと、バーテンダーさんはお仕事中だって……。それに俺が目の前にいるのにそっちに行くなんて酷いんじゃない?」
誘うように体を擦り寄せるが男性にかわされてしまう。なんて贅沢な奴。
「なんだ、君はこの店に来るのが初めてなのか? この店のバーテンダーは……いつでもOKだ」
それは知っているけど、俊太郎はこの店のバーテンダーでないからOKではない。だからといってそれをばらすわけにもいかないので結局、俊太郎は男性に誘われたら断れないのだ。
俊太郎を見れば案の定青ざめて固まっている。俊太郎からのアドリブは期待出来ない。それはいつものことなので問題はない。しかし、今は何でも良いからやってみて欲しかった。何故なら健の頭も真っ白で何も浮かばないからだ。
「良いよね? もう何杯か飲んだら部屋に行こうか。素面だと恥ずかしいなら君も何か飲むといい。僕が払うよ」
何も思いつかないうちに、もう俊太郎が男性の部屋に行くことは確定してしまった。ここから巻き返せるとは思えない。
諦めた健を、俊太郎は助けを求めるように見た。縋るような目つきに胸が痛む。ここで見捨てるのは悪いことのような気がしてきた。……小動物みたいな目で見るのはずるい。
それを男性が目敏く指摘する。
「……君はこのセクシーな男の子に興味があるのかな?」
有難い勘違いだ。これなら行けるかもと健は思った。俊太郎も閃いたようだ。
「はい……」
俊太郎は消え入りそうな小さな声で答えた。客に選ばれる側のバーテンダーが客を選ぶなど、あってはならない行為を恥じるような声はとてもリアルだ。隣の男性が興奮して生唾を飲む音がした。
「俺も可愛いバーテンダーさんに興味あるかな。……おじさまに選ばれなかったのは悔しいけどね」
健はこの機を逃すかと被せる。男性の口元には笑みが浮かびっぱなしだ。どうやら良い趣味をお持ちのようで。
「そうか……。子猫ちゃんたちの戯れ合いも悪くはないね」
かなり興味をそそられているのに、それを隠せると思っているのか、男性は何でもないふりをしてカクテルを一口飲んだ。
「じゃあ、二人とも部屋に来てくれるかな? その若い欲望を僕に見せておくれ」
男性のねっとりとした視線を受けた時、故障を疑うほど音沙汰のなかったイヤホンに音が入る。
『カルーア・ミルクを頼むよ。……ミルクたっぷりでね』
このタイミングでそのカクテルのチョイスは相変わらず性格が悪いと思った。俊太郎の眉間には一瞬、皺が寄った。
内容はともかく五十嵐の声がイヤホンからしたらそろそろ部屋への合図だ。今すぐに部屋に行かなくては。
「ねぇ、俺もう我慢出来なくなっちゃった ……。貴方の争奪戦に負けちゃったし、あのバーテンダーさんを早く泣かせたいんだけど」
男性の耳元でそう囁けば、男性は「そうか。じゃあもう出よう」と言った。即決だ。本当は一秒でも早く部屋に健と俊太郎を連れ込みたかったのが見え見えだ。
「この子の分も僕のに付けておいてくれ。 ……そして君もおいで」
男性は席から立つと俊太郎の腕を撫でた。俊太郎の顔が一瞬だけ引き攣る。俊太郎にしては上手く嫌悪感を隠せている方だ。
「かしこまりました」
俊太郎は近くにいた別のバーテンダーに何やら声をかけてから服のポケットに何かを入れた。カウンターから出てきた俊太郎の胸のポケットには赤いミニ薔薇が刺さっていた。お手付きの証だろうか。
「お待たせいたしました」
「こちらへおいで」
男性は俊太郎の腰に手を回して自身の真横に引き寄せた。反対側には健を抱き寄せている。
両手に若い男でデレデレとする男性に俊太郎はもうドン引いた顔を隠せていない。何とかあと少しだけ我慢していただきたい。
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