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「あのじじいキモかったな」
俊太郎と健は磨かれたフローリングの上に向かい合って座っている。俊太郎は迎えが来るまで雑談をする気のようだ。俊太郎は無言の時間に耐えられないようで、いつも任務後は別れるまで話しかけて来る。
「そうだね。でも俊太郎は慣れているんじゃないの? ……てか、そもそも何でハニートラップ出来ないの? 五十嵐の顔が近付くと嫌悪感が〜ってのも嘘でしょ?」
健は気になっていたことを聞いた。昼間は何故だか分からないが聞かないでおこうと思ったことだった。しかしお酒の入った脳みそが、気になることは聞くのが一番と言っている。
俊太郎は分かりやすく動揺した。濡れたまつ毛の下で瞳が揺れる。
「それは……」
俊太郎は何かを言いかけて口を噤んだ。そういう仕草が探究心を煽るのだということを俊太郎は分かっていないのか、それを考えるほどの余裕すらないのか。
少し黙った後に俊太郎は、「お前だって、おばさんにハニートラップするのは嫌だろ?」と言った。
そう言う話ではなかった気もするが、ふわふわしてよく分からない。何杯も飲むんじゃなかったなと、ぼんやり思う。
「それはそうだね」
素直に答えれば俊太郎は、「それと一緒」と言う。やはり何かが違う気がする。はぐらかされているような気がしてならないし、これは本当に何の答えにもなっていない気もする。でも、よく考えようとすると強烈な眠気がやってきてしまう。
「じゃあ、相手がおじさんなら若い女性の方が良いんだ?」
自分の言っていることも何かおかしい気がしたが、今の健には分からない。俊太郎は理解不能と言うように眉間に皺を寄せたが、「そうだな」と返してくれた。
「俺もおばさんよりも若い男性の方がいいなぁ、ハニートラップするなら」
健はマンションの天井を見上げながら言った。電球がない事に気付いて、この部屋が月明かりだけで照らされていることを知った。
「若い男性か。前に大学での任務があった時に助手の男を落としていたもんな」
そう言われてあの時のことを思い出す。助手の男性は……頑張ってもどんな顔か思い出せなかったが、何となく雰囲気が陰気だったのは覚えている。
「あ〜、でもあの人は違うなぁ。ハニートラップ仕掛けるなら俊太郎みたいな人がいいな」
月光に照らされる俊太郎を見て、健は言った。アルコールにやっつけられた頭で、思ったことをそのまま口にしただけだった。
俊太郎が目をまん丸くして驚くから、健は思わず笑った。
「は? 意味が分からない」
俊太郎の眉間にはまた皺が出来る。あと十年もしたら本当にそこに刻まれてしまいそうで心配だ。
じっと俊太郎を見る。思い返してみれば、相棒の姿をまじまじと見たことはない。男友達や仕事仲間なんて何となくの認識で事足りるからだ。
皺を寄せる姿も艶かしいような気がしなくもない。よく見ると魅力的でないこともないかもしれない。そう健は思った。回りくどいのはやはりあの男性の一件以来、俊太郎をライバル視しているからだ。健は自分が誰よりもモテて然るべきだと思っている。
「俊太郎なら良いかも。ちょっと試さない? 迎えが来るまで時間があるし」
健は完全な思いつきでそう言いながらスーツの上着を脱いだ。お酒も入って気分が良い。今なら何だって出来そうだった。――おじさんと寝るのは無理だが。
そんな健を見た俊太郎は、すごい勢いで座ったまま後ろに下がり健と距離を取った。顔は強張っている。
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