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二〇二一年六月四日
朝日に包まれた部屋でやたらと眠そうな男――五十嵐はいつもの寝癖頭を掻いた。
「ねぇ、二人はちゃんとくっつくと思う?」
大きなモニターに向かって話す。モニターからは低くとても美しい男性の声がする。
『私の計算が狂っているとでも?』
それを聞いた五十嵐は慌てて姿勢を正して座り直した。
「そ、そんな、君を疑っているわけじゃないよ! ただ、クラッシャーによって僕たちの世界の運命はすぐにあっちこっちへとっ散らかってしまうだろ?」
『確かにそうだな』
モニター越しに五十嵐の話し相手の男性は笑った。上品な笑い方は五十嵐と対照的だ。
「君と出会ってから今までも狂い続けて来たわけだけど、あと二人のこれからの予定はまだ君が十二月二十二日に計算した通りなんだよね?」
『ああ、そうだ。変わっていないさ』
男性の返答を聞き、五十嵐はホッと小さく息を吐き、ゲーミングチェアにもたれ込んだ。そしてそのままくるくると回り始める。こんなことをするのは小学生までだが、五十嵐はほとんど小学生と言っても過言ではないので問題ない。
『……昨日のあの二人のやり取り聞いたか?』
話し相手が切り出せば、五十嵐はピタリと止まりモニターを見た。その後、にやりと笑って「ああ、聞いたよ。迎えに行った時に止めなければヤッちゃいそうだったって」と言った。
『健は酒禁止だな』
やれやれとモニターの向こうの男性が言えば、五十嵐はゲラゲラと笑った。体を逸らして豪快に笑うので流石のゲーミングチェアも耐えられず、後ろに倒れて頭を思いっきり打ったが、それでも床に転がって笑い続けている。
「一発ヤッちゃえば良かったのに〜。体からの関係だってアリじゃん?」
『そんなのダメに決まっているだろ。ちゃんと順序を踏まないと……。恋愛経験ゼロの癖して、どうしてアリだなんて適当なことが言えるんだ』
「そっちだって恋愛経験ない癖に」
シーンと静まり返る。元々この五十嵐の自室は物音一つしない防音ルームなので、会話がなければ音はない。
「……ごめん」
俊太郎と健が見たら卒倒するだろう。あの五十嵐が謝るなんて、ありえない。――それこそ廃世界になったとしか思えない。
『いいさ。怒っていないよ。それよりあの二人がこれからどうなって行くか賭けようよ』
モニター越しの男性は、柔らかい口調でゆったりと話す。五十嵐は口を尖らせて、「それって未来を計算出来る君の方が有利なんじゃないの?」と言った。
男性はまた優雅に笑うと、『やはりさっきのことを少し怒っているってわけさ』と言う。五十嵐は眉を下げて反省を示した。それを見て、男性はまた笑う。
「……分かったよ。じゃあ僕は〈俊太郎が酔って健に襲いかかる〉に賭けるよ、マイフレンド」
『おやおや、そんなに負けに行かなくても良いのに……と思ったが君のことだ、本当に俊太郎がどんな人間か分かっていないんだろうね。私は〈健が俊太郎に惚れて俊太郎を素直にさせる〉に賭けるよ』
「それが君の計算した未来?」
その五十嵐の一言を最後に、また静寂が訪れる。時計が秒を刻む音が部屋に響く。
『どうかな?』
モニター越しの男性――マイフレンドが笑って、はぐらかされた五十嵐が不貞腐れる。これがこの二人の日常だ。
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