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◇◇◇
八階の一番端にある狭い空き教室に着くと、健はドアを開け放って中に入った。換気の為に開いていたあの窓を全て閉めてカーテンも閉める。そして教室の外に出るとドアを閉めた。
この時間の八階はひと気がないと五十嵐が言っていたが、本当にその通りで人っ子一人居ない。静かな廊下で健はイヤホンのボタンをカチカチと押した。
『ケン完了、了解。シュンはワープを。……シュン了解』
健はイヤホンのボタンを一回押した。
『ケン了解』
五十嵐がそう言った三秒後、空き教室のドアの隙間から強い光が漏れる。そしてドンッと物が落ちたような音がした。
すぐに空き教室のドアがガラリと開き、俊太郎が出てきた。
「はい、交代。ターゲットは窓側の前の方の席だよ」
俊太郎は健の肩をトンと叩くと、廊下の壁に腕を組んで凭れた。
「こっちのは廊下側の後ろの方の席に居るからよろしく」
健はもっと何か話したかったが、今は任務中だし時間もない。確実に何かが変わってしまった俊太郎との関係にもやもやとしながら空き教室に入りドアを閉めた。
お互いに今まで通りを演じ合っていることにお互い気付いている。こんなのがずっと続くなんて嫌だ。
考え事をしている間にも光は溢れて体はふわりと浮く。ズンッと沈めば、そこは別の空き教室になっている。――健の通う品川キャンパスの一号館の五階にある少し広めの教室だ。
健はすぐに立ち上がり、全てのカーテンを開けて窓もいくつか開けた。だいたい元の状態に戻しておいた方が良い。
右手のマーカーが変形したり液漏れしたりしていないことを確認すると、空き教室のドアを開けた。イヤホンは忘れずに二回押す。
『ケン完了、了解。……シュン完了、了解。じゃあ二人共、ペンをターゲットの持ち物に混ぜてね』
空き教室から出るとイヤホンを一回押して、何となく周りを見渡す。目の端に居るはずのない人影が映り込み、健はびくりと体を揺らす。――そこには目を見開きこちらを見つめる伊藤が居た。
伊藤は走って来ると空き教室の入り口の前に立つ健を突き飛ばし、中を覗いた。その勢いに圧倒されていると伊藤は、「今この教室に別の人が入って行ったよな? ……健、なんでお前しか居ないの?」と健に聞いた。
健はサァッと青ざめる。
水曜日のこの時間、五階で講義は行われていない。それに伊藤は水曜日の講義を一つも取っていないはずだ。
いろいろな考えや疑問がぐるぐると頭の中を巡ったが、考えるだけ無駄だとそれらを全て頭の端っこに追いやる。なんでもクソもない。〈伊藤 拓未がクラッシャーだから〉これに尽きるのだ。
「別の人がこの教室に入った瞬間、凄い光ったのが見えたんだ。だから閃光弾でも使ったのかと思っていたんだけど……何故か健が出てきた。何これ? マジック?」
健は何も答えずに伊藤の怪訝そうに見てくる目から逃げるように走った。エレベーターの〈下〉のボタンを押すと、ちょうどこの階で止まっていたようですぐに開く。
「おい待てよ! 健‼︎」
叫ぶ伊藤を残し、健は一階のボタンを押すと、閉じるボタンを連打した。ドアが閉まりエレベーターが動き出したところでホッと胸を撫で下ろす。
予想外の事態だったが、あの一瞬での最善を尽くせたと思う。会話をしなければチョーカーの効果で本当に健だったのか自信が持てなくなるはずだ。そうしたら人違いで通せば良い。きっと大丈夫だ。
ポーンと音がして一階に到着する。健はすぐに降りて隣の二号館へ向かう。二号館では階段で三階まで行く。三階の教室にいる――ターゲットの恋人である――二人目のターゲットの私物にこのマーカーを混ぜれば任務完了だ。
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