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二〇二一年七月六日
よく晴れた空を見上げる。白いぷくぷくとした雲がゆったりと流れて行く。今年の梅雨はやたらと短く、もう夏に片足を突っ込んでいる。
日に日に鋭さを増していく日差しに目を細める。そろそろ外で待ち合わせをするのはきつい季節になってきた。
「お待たせ」
待ち侘びた声が後ろからして、健は慌てて振り返る。そこにはいつもよりも気持ち柔らかい表情をした俊太郎が立っていた。
俊太郎は以前あった、タイムトラベラーX――誠亞捕獲任務の時のように着飾っていた。そのことに健はホッとした。自分だけ気合いを入れていたら恥ずかしい。
「おはよ。早いね」
健はそう言って笑顔を見せた。自分で自分が信じられないほど下手くそな笑顔だったが、俊太郎はまるで分かっていたかのように顔色一つ変えない。
「健こそ……意外だった。もっと時間ギリギリなタイプかと思っていた」
いったい健は俊太郎の中でどんな人物なのか。怖くて聞けないがきっと良いイメージでは無いだろう。ハニートラップの任務後の任務ではあまり話せなかったし、きっと酷いイメージのままだ。
元の関係に戻りたいかと言うと、何か違う気がするが具体的にどうなることを望んでいるのか、健自身も量りかねていた。しかし、それでもとりあえずはイメージ改善が必須だ。
「今日はメンズブレスレットを見たいんだっけ?」
俊太郎に話しかけられて、慌てて考え事を止める。
「うん。ほら、もう夏で長袖は暑いし不自然だから、良いチョーカー隠しが欲しかったんだよね。レザーのやつとか馴染みが良さそうじゃない?」
「ああ。確かに、遊園地の時みたいなのは困るな」
チョーカーの上手い隠し方を俊太郎と考えながら事前に調べておいた店に向かって歩き始める。俊太郎は何でもないように話すが、実は今日会ってから一回も目が合っていない。
買い物をしてお昼ご飯を食べて解散。猶予は長くて四時間だ。この時間でどうにかしなければ。
◇◇◇
任務ではなく休日にこうして会うのは初めてのことだ。自分の中の得体の知れないもやもやを晴らす為に俊太郎との約束を取り付けたは良いものの、見切り発車なだけにどんな一日になるかと不安だった。しかし、それは杞憂に終わった。――お互いに今まで通りを演じてはいるが――会話は弾んでいるのだ。
「そう言えばさ、俊太郎はよく誠亞と話しているよね。共通の趣味でもあるの?」
気になっていたが、なんとなく聞けていなかったことを聞いた。今のこの雰囲気の中なら聞ける気がした。
店へはまだまだ歩く。
「共通の趣味っていうか、誠亞とはタメだから」
俊太郎は日光を集めてギラリと光るアスファルトに、目を細めた。
「同い年⁉︎ もっと大人なのかと思っていた」
健は俊太郎の横顔を見ながら話している。前を向いていた俊太郎が急にこちらを見上げた。気まぐれなのか、少し大きな声を出したからなのか分からないが、健の心臓はどきりと跳ね上がった。
反射的に目を逸らしてしまったが、別に話し相手の顔を見ながら話すことは何も疚しくない。何故、こんな行動をしてしまったのか。
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