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「綺麗だから確かに年齢はよく分からないよな。でも、話した感じだと年相応だと思ったけど。二十四歳ってあんなもんだろ」
俊太郎がさらっと話した中に聞き捨てならないことが混じっていて、思わず立ち止まる。急に止まった健を不審に思った俊太郎も、足を止めて訝しげな表情で健を見る。
「二十四歳? ……待って、俊太郎って二十一歳なんじゃないの?」
確か、俊太郎は健と同い年だったはずだ。だから呼び捨てにしていたのに嘘だったのだろうか。
「二十一歳? それって健の年だろ?」
俊太郎は首を傾げた。そしてその瞬間、今日初めてしっかりと目が合った。また心臓が跳ね上がるが今度は首に力を入れて、顔を逸らしてしまわないようにした。
「俺と俊太郎って同い年だよね?」
「違うけど」
「同い年って俺に言ったよね?」
「俺の年齢の話をした覚えがないな。五十嵐から聞いているのかと思った」
首の後ろをぽりぽりと掻きながら「なんだ勘違いしていたのか」と言う俊太郎を健は呆然と眺めた。
なんてこったい。健は頭を抱える。ここのところ頭を抱えてばっかりだ。
俊太郎への接し方の基盤となっていた同い年という情報が間違いだった。青天の霹靂だ。慌てて自分の記憶を遡るがどこを切り取っても年上の人に対する態度ではない。
この前の任務でついた悪いイメージを払拭しなければと思っていたが、そもそも最初から俊太郎の中で健は生意気なクソガキだったのだ。俊太郎が年上っぽくないのが悪いなんて責任転嫁は出来ない。思い返せば年上を匂わせる会話はいくつかあった。――俊太郎との会話を事細かに記憶している自分のキモさはとりあえず一回スルーする。
ここで健は思った。こんなんじゃ俊太郎に好きになってもらうのは無理だと。
「健? どうした?」
心配そうに健を見上げる俊太郎を見ればドキドキと鼓動が早まる。そうかこれは――。
「何でもない。ちょっと驚いただけ」
健はそう答えて歩き始める。そう何でもないのだ。そうでなくては困る。初恋の時に匹敵する胸の高鳴りなんて無視だ。こんな絶望的な恋を認めるわけにはいかない。
◇◇◇
メンズブレスレット専門店に入った瞬間、横からにゅっと伸びてきた手に腕を掴まれた。ぎょっとして手が伸びてきた方を見る。
「健! ようやく捕まえた。のらりくらりと逃げやがって」
「拓未……」
不機嫌そうな顔をした伊藤がそこに居た。後ろで俊太郎が小さく悲鳴をあげるのが聞こえた。
「健、お前あの日大学に居たよな?」
「だから何度もRINGで言った通り、十一日は行っていないって」
健は冷静にそう返す。正直、伊藤との会話が未来に及ぼす計り知れない影響よりも、健の後ろでフリーズしているであろう俊太郎の精神状態の方が心配だった。
「でも、あれは確かにお前だったって!」
「それで俺がマジックをしたって言うんだろ? もう聞き飽きたよ。マジックなんてして見せたことないじゃんか。人違いだって。よく思い出してみろよ」
あのチョーカーは思い出そうとすればするほど、どんな顔だったか、どんな服装だったかが出てこなくなる。伊藤が考えれば考えるほど誤魔化しやすくなっていくのだ。
「思い出そうとしても顔が上手く出てこないんだ……。でも! あの時、俺はお前だと思ったんだ! 幼馴染のお前を見間違うわけないだろ!」
伊藤の目に迷いはなく、揺らぎない自信が曖昧な記憶を支えていることが分かる。五十嵐にはこういう意味不明な自信への対処法と考えておいてほしかった。
どうすれば良いいんだ、これ! 健は心の中で叫んだ。
服の端を後ろからくいっと引っ張られて振り返れば、意外にも落ち着いているように見える俊太郎が、健の服を摘んでいた。
「何の話をしているのか分からないけど、店の中で揉めるのは迷惑だから外で話せよ」
俊太郎がそう言ったところで伊藤は、俊太郎の俊太郎の存在に気付いたようで「え? 男と一緒だったのかよ、珍しい」と言った。
余計なことを、と伊藤を睨んだが、伊藤は怪訝そうにこちらを見るだけだった。健が女の子達と遊んでいることは俊太郎もよく知っている為、今更隠そうとしたって意味が無いことは分かっているが、これは理屈ではない。理屈の話をすれば、そもそも何で俊太郎に良く思われたいのかも分からないのだから。
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