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伊藤に引っ張られて、薄汚れた路地裏に入る。少し進んだところで伊藤と向き合った。何か理由をつけて逃げてしまうのではないかと思っていた俊太郎は、意外にも――少し離れているものの――健の横に立って居てくれた。
「お前は何回もRINGで否定したけど、通話したいって言っても出来ないって言うし、会って話すのもずっと予定が入っていて無理って……そんなのおかしいだろ⁉︎ だから俺、何か隠しているって思ったんだ」
伊藤の真剣な眼差しがあまりにもまっすぐで、嘘を吐いている健は目を逸らしたくなったが耐える。
幼馴染を騙して世間には認められないヒーローごっこ。冷静になると全てを投げ出して楽になってしまいたくなる。楽になる方が世間一般的には正しいわけだし、投げ出したところで健を責める人間は五十嵐と俊太郎くらいしかいない。しかし、それは未来を見捨てることになる。
涼しい顔の裏で葛藤する健のことなんて知らない伊藤は話を続ける。
「それでちょっと調べてみたんだけど……光った後に人が消える事件は何度も起きていることが分かったんだ。一番大々的に事件化しているのは二月三日のパーティー会場で起きた、高級時計窃盗未遂事件」
背中に冷や汗が伝う。あれは新聞にもならないような小さな事件扱いだったはずだ。眉唾記事しか書かない週刊誌に宇宙の仕業だと書かれていたと、五十嵐が笑っていたのを思い出す。普通、あんな記事読まないし、信じない。
「健……。お前これに関わっているんだろ? この事件の記事に書いてあったんだけど、何故か男子トイレから消えた二人の人間は防犯カメラに顔も服装も映らず、見た人間は一つも特徴を覚えていなかったらしい。こんなのおかしいよな⁉︎ 俺があの日、お前を見たはずなのに思い出せないのと同じで何かトリックがあるんだろ?」
ああ、もう無理だ。ここまでばれていては誤魔化しようがない。
貧血なんてなったことがないが、今だけは貧血で倒れてしまいたい。ちょうど血の気が引いているし、あと一分も立っていればいけるんじゃなかろうか。
「おい、ちょっと落ち着けよ」
横で黙って様子を見ていた俊太郎が突然話に割り込む。健はびっくりして俊太郎を見る。――青ざめて震えていると思っていた俊太郎は、何でもない顔をして両足でしっかり立っていた。
「相変わらず話が見えないけど。十一日って六月十一日のことだろ?」
「……そうだけどお前には関係ないだろ。ってかお前、何? 健に男友達なんて片手で数えられるほどしかいないはずだけど」
伊藤はそう言いながら俊太郎に近付くと、ガシッと肩を掴んだ。瞬間、俊太郎の喉がひくつくのが見えた。――なんだ、無理しているだけか。想像通りの俊太郎に健はホッとする。
「六月十一日なら俺と一日一緒に居たから、健は大学に行っていない。大学で会ったっていうのは人違いなんじゃないか?」
何でもないふりをしながら俊太郎はそう言った。アドリブNGだった俊太郎の成長に健は、もやりとした。年齢も足の速さも勝てなくて、順応力もトントンになってしまったら自分は何で俊太郎に勝てるのだろう。
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