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俊太郎が一向にこちらを見ないので、健は俊太郎の顎を掴み、ぐいっと無理やり上を向かせる。俊太郎の目には涙が溜まっていて頭が冷えていく。健は何か言わなくてはと思うが何も言葉が出てこない。
そうして訪れた沈黙に割って入ってきたのは、マイフレンドというAIだった。
『取り込み中、申し訳ないが五十嵐のことで報告がある』
落ち着いた声で話しかけられれば、どんな状況でも自然と耳を傾けてしまう。健も俊太郎もお互いから目線を外してモニターを見た。
マイフレンドはAIらしくもなく、言い辛そうに咳払いなんかをしてから続けた。
『……五十嵐は死ななかった。大型のトラックに吹っ飛ばされたのだが……。今、病院で治療を受けている』
もごもごしながらそう言ったマイフレンドに、何か言葉を返せる者は居なかった。固まる四人を置き去りにして秒針は進み、何周かした時にようやく一人が口を開く。
俊太郎の「それって未来がズレたってことか?」という問いに、マイフレンドは『そう……だね』と答えた。
健は知らず知らずのうちに力んでいたようだ。ふうと息を吐き、全身の力をゆっくりと抜く。――どんなに性格が合わない奴でも身近な人が死ぬのは嫌だ。ニュースで初めて聞くような名前の赤の他人が死んでも嫌な気持ちになるのだから当然と言えば当然だ。
未来がズレて良かった。
「……ああ、そうか! 伊藤君がここに来たからか!」
珍しく誠亞が大きな声を出した。健と俊太郎は驚いて目を見開き、誠亞を見る。興奮して薄ピンク色に染まった頬が、青白いほどに白い肌の中で差し色になっていた。
伊藤は「え? 俺?」と小声で呟いた。
初めて見る――興奮した様子の誠亞は、伊藤の両手をがしりと掴むと、ブンブンと加減も忘れて握手をした。生まれ育った世界の重力の感覚はそうそう矯正出来ないようだ。
「ここに来るのは俊太郎と健の二人だったんだ。予定ではね。しかし伊藤君が来たことでズレが生じた。来るのもやけに早かったし……きっとかなり大きなズレが発生したんだ。それによって五十嵐の死はズレた」
伊藤は誠亞の説明がピンと来なかったようで「ははっ……それなら良かった?」なんて曖昧に相槌を打っている。
それを見ているといるとドンッと正面から体に衝撃を受けた。驚いて自身の体に視線を落とせば、俊太郎が抱き着いている。目を疑うような光景に健は数秒動けなかったが、そっと俊太郎の背名に腕を回してみた。
「……五十嵐、死ななくて良かったな」
そう言う俊太郎は鼻声だった。健は、添えているだけだった腕に、ぎゅっと力を入れて俊太郎を強く抱きしめた。
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