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◇◇◇
病室の白いスライド式のドアを開ければ、両足を吊られた五十嵐がベッドの上で本を読んでいた。ドアの開く音でこちらに気付くと、迎えの親が来た時の園児を彷彿とさせる満面の笑みを見せた。
「あ⁉ みんな来てくれたんだ‼ まあまあ遠慮せずに入りなよ! 空いているからただの骨折なのに個室をゲットしたんだよ」
本当にトラックに吹っ飛ばされたのかと疑いたくなるほど、いつも通りの五十嵐に俊太郎が「お前、その足のやつは飾りじゃないよな?」と憎まれ口を叩いた。五十嵐はそれを聞いて楽しそうに笑った。
四人は五十嵐のベッドの横まで歩いていく。近くで見ると、頬や腕などにも少し怪我をしているのが分かった。
命の恩人だからと半ば強引に連れてこられた伊藤は、端の方で「すみません。俺、ここに居て」と言って、眉を下げた。
「え? 僕が助かったのってズレたからでしょ? クラッシャーである伊藤君のお陰じゃん。ありがとう」
五十嵐はワッハッハッと豪快に笑った後にぼそりと「まあ、伊藤君がズラしまくった結果、僕の死期が早まっていたんだけどね」と付け加えた。
反射的に殴りかかりそうになるが、先ほどトラックに引かれたばかりの怪我人であることを思い出す。誠亞に「余計なことを言うな」と叱られて、五十嵐は膨れた。
青くなって「すみません……」と謝る伊藤に、俊太郎が「マジで気にすんな。放っておいても、こいつはいずれ今まで買った恨みで刺されて死ぬから」と言った。
「ええ~? シュン君、冷た~い」
そうぼやく五十嵐に、健は俊太郎が五十嵐のことで泣いたことを教えてやらないことにした。俊太郎のプライドの為ではない。嫉妬の類いがそうさせたのだ。五十嵐なんかに対抗したところでしょうもないのは分かっているが、どうにも気持ちは制御出来ない。
何はともあれ突如訪れた二つの危機から脱することが出来た。謎のAIーーマイフレンドのことや今回は何故ズラさない選択をしたのかなど、聞きたいことも山ほど出来たが、それは今日聞かなくても良い気がする。
自然と湧き出る欠伸を噛み殺して、健はにんまりと笑った。今日はゆっくりと眠れそうだ――。
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