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二〇二一年八月十七日
『それでは五十嵐の退院を祝いまして……乾杯!』
マイフレンドの声に合わせて、健は右手のグラスを掲げた後、それを五十嵐のグラスに寄せてチンッと軽い音を鳴らした。
申し訳なさ程度に少量、口に含んだアルコールを胃に落として健は口を開く。
「思ったより早かったね。トラックって聞いたからもっとかかるものかと思っていたよ」
五十嵐は寝癖頭をわしゃわしゃと掻き回しながら「こればっかりは運が良かったとしか言えないね。命あるだけ儲けものなのに五体満足なんて、伊藤君に感謝感謝だよ」と笑う。入院生活でいろいろと思うところもあったのか、いつもの余計な一言はなりを潜めていた。
もうすぐギプスも取れるのだと言う五十嵐が、豪快に笑いながら酒を煽るのを見て、健は怪我人に酒って良いのだろうかと考えた。
そんな呑気な健の隣で、俊太郎は一人難しい顔をしていた。
「五十嵐が退院をしたのって先週だろ? なんで今日なんだ? これパーティーに見せかけた任務の収集じゃないよな?」
そう言った俊太郎は、訝しげに五十嵐を見る。健は俊太郎がそう言うのを聞いて、初めてその可能性を考えた。この前騙されたばかりだというのに、この平和なお頭は人を疑うことを知らない。
「え? 流石にないよな?」
そうに決まっている。そう思いながら聞いたのに、五十嵐はわざとらしい笑顔を顔に張り付けて、時が止まったように直立不動でそこにいた。その隣では誠亞がフッと小さく笑う。御名答とでも言いたげなその笑みに健はあんぐりと口を開けるしかなかった。
『……任務ではないよ。退院祝いのパーティーだって本物さ』
唯一、物理的に全く表情の読めないマイフレンドが、五十嵐の代わりに俊太郎と健の問いに答えた。
「任務ではなかったら、何なんだ? 嘘か本当かも分からない残念なお知らせ? それとも珍しく良いお知らせかな?」
俊太郎は、伊藤自殺未遂事件――別名、五十嵐虚言事件を相当根に持っているようだった。結果的に伊藤も五十嵐も死ななかったので、健はもうそれほど気にしていないのだが、俊太郎はあれから何かある度にそのことを持ち出す。
『その件は何度も謝罪をしているだろう?』
納得のいっていなそうな俊太郎を見て、マイフレンドは渋々初出しの情報を話し始めた。
『……作戦が陳腐な嘘で騙すことになってしまったのは私のせいなんだ。友人である五十嵐が死ぬとなって、私は酷く動揺してしまってね。役に立たない私の代わりに五十嵐が考えてくれた作戦だったんだ』
マイフレンドは最後に『AI失格さ』と弱々しく笑った。それであんなに勢い任せのお粗末な嘘だったのか。
俊太郎も健と同じことを思ったのか、短く「なるほどな」とだけ言った。
「陳腐ってどういうこと⁉︎ 僕、一生懸命考えたんだけど!?」
どうして誰も何も言ってくれないのかと一人喚く五十嵐を無視して、健はマイフレンドに聞く。
「じゃあ、今日は何なの? 退院パーティーと?」
マイフレンドは低く響く声で、フフッと笑うと『ネタバラシってやつだよ』と言った。
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