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side チハル ポインセチアの切望
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「、、コノハ、大丈夫?」
廊下に蹲るコノハにゆっくりと近づきその震える肩を抱く。
自分よりも幾分か低い体温が手を伝ってくる。
そして何も答えない彼を暫くそっとしておきたいところだか、このままでは人が通った時に面倒だ。
「コノ、とりあえずセンターに行くぞ。
ここは少し目立ってしまうから。」
「、、ぅん、」
ゆらりと少し傾きながら立ち上がる彼の手をしっかりと握って歩き始める。
そうでもしないとコノハは消えてしまいそうな錯覚に陥るほど危ういのだ、昔から。
そうしてセンターへとたどり着く。
とりあえずお茶を出しておこう、あとコノハが大好きな茶請けも用意しないと。
「、、、ごめん、、」
俺が準備をしているとコノハがボソリと呟く。
幼い、弱々しい声。
彼の本当の姿が垣間見える。
「っ、ごめん、ごめんなさい、ケイ。
おれのせいで、あんなことに、、、おれさえ居なければ!!」
手で顔を覆い泣き崩れるコノハ。
まずい、呼吸が少しおかしい。
このままでは過呼吸を起こしてしまう。
急いでコノハに駆け寄ってその薄い背に手を当てる。
「コノ、ゆっくりと息を吐いて。
、、そう、吸ってー、はいてー。、、うん、上手。」
何とか息が整ってきた。
だがまだ手先は震えている。
それに擦ってしまったのだろうか、綺麗な目は赤く染まっていた。
「コノ、」
「っはぁ、、、なぁに、チハっぁ!」
その淡く色付い唇に己の唇を重ねる。
微かに香る金木犀の甘い香りは彼の象徴であろう。
「、、んっ、ふぅ、、、っあ」
自分でも思ったより長くしてしまったらしい。
唇を離す頃にはコノハの頬は少し温かくなっていた。
「ちょっとは落ち着いたか?おバカなコノハ?」
するとコノハは少しキョトンとしてから、意味を理解したのか柔らかい春のような微笑みを浮かべる。
「、っはぁ、、ふふ、おかげさまで。チハルくんがいきなりあんなことするからびっくりしてそれどころじゃ無くなったね。」
「、、、君付けキモイ、」
「あはは!!なんて顔してんの!おれはてっきりチハルがいきなりシたくなってキスしてきたのかと思っ、、、ごめん冗談だって、そんな怒んないで」
いきなりなんてことを言い出すんだこのアホは。
だいたい幼馴染に発情する性癖は残念ながら持っていない。
たとえ持っていたとしてもコノハみたいに触ったら折れそうなくらい華奢な奴はタイプじゃない。
「、、なんか失礼なことを考えてるだろ、お前。」
「べっつにぃ?てか、コノそういうのやめろよ。」
「そういうのって?」
コノハがとぼけたように軽く言う。
まるで自分を道化師に見せかけているようだ。
俺の前でまでそんなことをしなくたっていいのに、もっと俺を頼って欲しいのに。
そんな言葉をかけようにも彼の反応を考えると勇気の一歩が踏み出せない。
「自分を安売りすることだよ。お前だって耳にしてるだろ自分がなんて言われてるか。」
「"頼めばヤラせてくれるビッチ"とか"救命の救性主"だろ?まだあるかもなぁ、、」
なんかちょっとセンスいいんだよなぁ、などと軽く自嘲したような口調で呟く。
聞いているこちらが辛くなるような言葉の数々。
それを平然と当たり前のように並べる彼はどこか諦めたように目を伏せてお茶を一口啜った。
「、、ふふ、なんでチハが辛そうにするんだよぉ!だいじょーぶ。そういうのもう慣れたからさ。」
明るい声が響く。
そんな彼の白魚のように真っ白で骨ばった手を掴む。
自分よりもずっと冷たいその手を少しでも温めたくてぎゅっと握る。
(ちょっとでも俺の熱が分けてあげられればいいのに、、)
「、、、相談乗るから。頼むよ、もう少し自分を大事にしてやって。愛してやってくれないか?」
コノハは少し息を飲む。
そして泣きそうな表情なのに笑う。
そのちぐはぐな感情は優しすぎる彼が発する助けて、という信号なのだろう。
「、、自分の大切な人すら守れない、おれは自分の保身に走ったんだ。そんなやつ大事にさせる価値なんてないよ。それにね、チハ?誰かに抱かれている時だけは寒くないんだ。あったかくてよく眠れる。しあわせだよおれは、」
助けてあげたい。
目の前で幸せという彼は目の下に隈を作っている。
何処が眠れてるんだ。ぜんぜん大丈夫なんかじゃないじゃないか。
でも俺がそれを言ったところでこいつはきっと心からは助からない。
代わりに隈の取れなくなった美しい目をそっと撫でる。
すると少しくすぐったそうに頬を寄せてくる。
「チハの手は暖かいねぇ。」
「、、ばーか、コノハが冷たいんだ。もっと暖かくしなよ、ただでさえ低体温で風邪ひきやすいのに。それにどんどん寒くなるから。」
「そうだね、もう秋か。もうすぐ金木犀も銀木犀も満開になる。また遊びに来てよ、一人はちょっとだけ寂しいんだ。」
俺の指先で遊びながらコノハがこちらを見やる。
「当たり前だ。何日でも泊まってやるよ。」
そう言う少し嬉しそうにはにかんでコノハは残りのお茶を飲み干す。
甘く爽やかな金木犀の香りを纏うコノハはほんとに綺麗だ。
同時に目を離せば一瞬で消えてしまいそうなほど儚い雰囲気に包まれている。
「チハ、お礼にちょっとだけ色んな人と寝るのは辞めてあげる。その代わりになる暖かい方法なんか教えろよ。じゃ、ありがとうねチハ、大好きだよ」
そう言うと俺の額にほんの少しだけ口をつけて部屋を出ていく。
部屋にはほんのり甘い香りだけが彼がここにいたことを証明する。
俺はそっと額に触れて椅子の背もたれに体重をかけ、両手で目を覆う。
(俺はどうすれば良かったんだろう。)
この5ヶ月あいつがどれだけケイのことを待っていたのかは、俺だけではなくマコトもシュンタもなんなら病院中の人が知っている。
その中にはあいつに心無い言葉を差し向けるやつだっていた。その時少しでもあいつのことを守ってやれたら。
「なんだかなぁ、、、」
やるせない思いだけが心に積もっていく。
コノハはきっと自分を許してあげられない。
そんなあいつをちゃんと見つけて温めてあげられるのはきっと世界中を探してもただ一人。
誰よりも患者に寄り添い、優しく導いあげる彼だけだ。
(頼むぞ、ケイ。どうかあいつの事を見つけてあげてくれ。たとえこの先がどれだけ辛くても。
コノハはもう幸せになってもいいんだ。)
(でももしケイが"あいつ"のことを先に思い出してしまったら、、、
その時、今度こそコノハはきっと、、)
そんなことを考えるのは一旦やめよう。
今はあの二人の最善の未来だけを祈ることにしよう。
だが、もしも本当にコノハにそんな茨の道が現れたとしたら
(そんときは俺がコノハを連れてどこかへ逃げてしまおうか。誰も居ない、コノハが幸せに眠れる場所へ。
でもそんなことになる前に、、)
「ケイ、ちゃんとコノハに気づいて。
自分の愛することを忘れたあいつがもう一度幸せになるにはお前が温めてやって欲しい。
もう二度とあんな姿は見たくないんだ。俺も、みんなも。」
なりふりかまわずに偽りの愛を与えられて"しあわせ"と泣いている彼を思い出す。
あんな不名誉な名前をつけられてまで受け取る愛にきっと価値なんてない。
「_______。」
午後の暖かい陽気に誘われて懐かしい言葉を思い出す。
両手に願いを込めると、その言葉が口からポロリとこぼれた。
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