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side ケイ スイセンの解答
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「、、ごめんなさい、、私周りが見えていなくって、、
その、、頬を痛かったですよね」
ベッドの上で頭を下げる金糸さんを日奈瀬さんは慌てて止める。
「ぼくは大丈夫です。金糸さんも初めての妊娠で気が動転していたんでしょう。お気になさらないでください。」
すると先程まで止まっていた涙がまた溢れ始めた。
もう既に彼女の目は真っ赤に染まってしまっている。
「ほらほらもう泣き止んでください!
それよりぼくは金糸さんとたくさん話がしたいです。」
そう言って金糸さんの目尻の涙を拭う。
金糸さんは気持ち頬をを赤くしている気がする。
「よし!まずは自己紹介からしましょう」
日奈瀬さんは部屋の隅から椅子を二脚ベッド際に置いて俺を手招きした。
急いで向かい、日奈瀬さんの隣へと腰を下ろす。
「じゃあぼくから、名前は日奈瀬 コノハって言います。日奈瀬先生でもコノハ先生でもなんと呼んで貰っても大丈夫!うーん、、そうですね、、言うなら金糸さんの主治医その一です。」
そう言い終わると日奈瀬さんは肘で俺のことをつつく。
お前の番だとでも言いたいのだろう。
「俺は柚木 ケイと申します。俺もなんと呼んでいただいても結構ですよ。主治医その二です。」
すると金糸さん気まずそうにこちらを伺い、
「さっきはすみません、、コーヒーかけてしまって、、、」
「いえいえ、大丈夫ですよ。こちらこそ配慮が足りず申し訳ありませんでした。」
俺はさっきのことなんてとっくに気にしていなかったのでそう告げると、金糸さんはまた泣きそうになるがグッ、と堪え自分の紹介を始めた。
「、、金糸 スズメって言います。十八歳。」
それを聞くと日奈瀬さんは納得したように手を叩き、金糸さんにたずねる。
なにかわかったのだろうか。
「もしかして金糸さんのお名前は鳥の名前から来ていますか?金に糸、そして雀ということは、、、」
「!!っそうです!私の名前、カナリアから来てるんです!父が名付けてくれたそうなんで。」
金糸さんは嬉しそうに頬を染めていう。父親はなかなか良い感性をしていたらしい。
彼女は美しい金色の髪を揺らしている。
「その、、うち、、父が居ないんです。私が小さい時にいなくなっちゃって、、その後は母の実家で暮らしていたんですが、、」
時折言葉につまりながらも金糸さんは自分の生い立ち、そして妊娠の経緯など細かく話してくれた。
金糸さんが話しはじめた話はなんとも酷い話だった
曰く、父親がいなくなった後母方の実家に引き取られ祖父母、実母と暮らしていたそうだがその家はいわゆる新興宗教にどっぷりとハマっていたらしい。
そのせいで色々子供の頃から制限を受け、学校で虐められたことから人間不信に陥っていたそうだ。
そんな中でも心の拠り所であった恋人に子供ができた、と告げるたら次の日には家はもぬけの殻になっていた。
「母親達に妊娠のことを言って、恋人のことも言ったら、、なんと言いますか、、
『お前は私たちに叛いた反逆者だ。もう二度とうちの敷地を跨ぐな』といわれてしまって、そのままズルズルと診察にも行けずに今に至ります。」
金糸さんは寂しそうに外を見ていた。
こうしてみると本当にただの十代の少女にしか見えない。
「私、自分の母親に言われたんです。
『お前のような人間が母親になれるわけが無い。お前は神に仇を為した。幸せにはなれるはずがない』って、、
その言葉がずっと頭に響いて、、この子をおろそうと考えたこともありました。」
彼女はお腹を優しく擦りながら優しい声でいう。その顔は慈愛に満ちた母親の顔になっていた。
「、、でもそんなことできるわけがなかった。せっかく私のお腹に来てくれたのに、、私はそんな子を無くすなんて決断出来なかった!!」
お腹を抱えまた顔をぐしゃぐしゃにして泣き出す。
俺はこういう時どんな対応を取るべきなのか正解が分からない。どうすればいい?そう考えていると、、
「今までよく頑張りましたね、、えらいえらい。」
日奈瀬さんが立ち上がり、泣いてうずくまる金糸さんを優しく抱きしめる。
「金糸さん、どうか自分を責めないで。そりゃ初めての妊娠でわかんないことだらけで本当に怖かったですよね。
でもね、それは決して悪いことではないんですよ。」
すると日奈瀬さんの腕の中から小さな声がする。
とても幼い、あどけない声だった。
「、、でも私は一度この子を殺そうとしてしまいました。それに診察に行かなかったのもきっと、、、
私やっぱり母の言う通り良い母親にはなれないんです。」
震える声で心の内を明かす。
まだたった十八歳、右も左も分からない中一人耐えて来なさたのだろう。
「そんなことは無いです。だって金糸さん運ばれてきた時なんて言ったか覚えてますか?」
日奈瀬さんは優しく諭すような声で続ける。
「『お腹の子を助けて!』って、確かにそう言ってましたよ。それにさっきだってお腹を撫でている時、金糸さんはちゃんとお母さんの顔をしていました。」
金糸さんはその言葉に少し体を跳ねさせる。
きっと無意識で言っていたのだろう。
「わたし、、、そんなことを、、」
日奈瀬さんはゆっくりうなづいて言葉を紡ぐ。
「ねぇ、金糸さん?赤ちゃんがまだお腹に来てくれて一年も経っていないということは金糸さん自身もまだお母さんになって一年経っていないんです。
一年しか経っていないのになんでも完璧にできる人なんてそうそういません。」
「ここにはたくさんの人がいます。その人たちはみんな誰かの命のために働いているんです。そして僕たちは金糸さんのためにいます。だから一人で抱え込まないで。
もしお産のことで心配なことがあれば柚木先生がなんでも答えてくれるから。大丈夫、ぼくらがしっかりサポートしますから安心して赤ちゃんに会いましょう。」
金糸さんは少し固まったあとその痩躯を小刻みに震わしながら答えた。
「もう一人で頑張らないでもいいんだぁ、、
もうひとりじゃないんですね」
さっきの泣き顔とは違い、花の咲いたような淡い笑みを浮かべている。
「えぇ、金糸さんはひとりじゃないよ。ねぇ柚木先生?」
「はい、お産のは俺がしっかり金糸さんが赤ちゃんに会えるようにサポートをしますから。心配せずに大舟に乗ったつもりでいてください。」
すると金糸さんはゆったりとその手を差し出してくれた。
俺は右の手のひらを、日奈瀬さんは左の手のひらをその手に重ねる。
「こんなに心強い先生が二人も着いてくれるなんて頼もしいです。
私とお腹の子をどうかよろしくお願いします。」
その後は俺からお産についての軽い説明ののちに日奈瀬さんから金糸さん自身の体についてお話を受けていた。
彼女は必死にメモを取りながら、それでいて生き生きとしているようなすがたであり、
それはもう先程のような孤独な少女では無くなっていた。
「たくさんご迷惑をおかけして本当にごめんなさい。
今日から約二ヶ月間改めてよろしくお願いします」
一時間ほどして金糸さんの部屋を後にすることにして、その際彼女は深々と礼をして俺たちを見送った。
たった十八歳の少女にしては重すぎるものを背負っているが彼女はもう一人では無いのだからたくさん頼って欲しい。
「ちゃんと話してくれて良かったぁ、、でも最近の女の子は力が強くてびっくりだな。」
日奈瀬さんは赤くなってしまった頬を擦りながらポツリと言った。
「帰ったらすぐに冷やしましょう。」
緩く伸びをしながらそうしなきゃな、と日奈瀬さんがいつたその時、彼の胸ポケットに入っていた携帯が明るい音楽を鳴らし始める。
「はい、日奈瀬です。ってツバメ?どうし、、、
わかった、すぐに向かう。」
次の瞬間、突然厳しい顔をしたかと思うと口早に俺に尋ねる。
「柚木、この後の予定はなにか入ってるか?」
「いえ、特には何も、、、何かあったんですか?」
するといきなり俺の手をとり走り出す。
持ってきたカウンターは入れ替わり金糸さんの病室へと来た看護師に預けていたようだ。
「救急搬送で三人家族が来た。
今人手が足りないから救命にヘルプ入って!」
走りながらそう告げる日奈瀬さんはまっすぐ前だけを見て、処置室へと急ぐ。
繋がれている彼の手は思いのほか冷たく、でも何故かとても心地よく感じる。
そうして二人、西日が差し込む院内を急いで駆けていった。
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