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隣の部屋で待機をしていろという指示に従い、中で待っていると最初に戻ってきたのはマコトと社さんだった。
(花房さんはどうなったのだろうか、、)
最初に思いついたのはそんなことだった。
するとそれを見透かしたようにマコトが口を開く。
「軽く脳内で出血してた。位置が位置だったから他のベテランの先生に任せてきたよ。」
そう言いながら椅子に座る。
この丸机は最大六人まで座れるようになっているらしく後五席空いている。
社さんは何やらお茶を準備しているようだ。
「幸いにも脳外の先生は今日多くいらっしゃったのですぐにオペに入るそうです。そうしたらすぐにICUですね。」
コーヒーか紅茶どちらにしますか、と尋ねながら社さんが報告をしてくれる。
(よかった、、)
ひとまずホッと息を着く。
聞いているとその手術も場所が少し複雑なだけで、あまり難しい手術でもないという。
後二、三時間もすれば終わるだろうと言われたらしい。
「マコトもよく見つけられたな。あんな場所なかなか見つけられないだろう。」
「ちょうど昨日そういう場所関連の脳出血の論文を読んだんです!だからほんとたまたまですよ。」
少し照れくさそうにマコトがいう。
なかなかに勤勉な性格をしているらしい。
「柚木くんも初日から大変でしたね、、
あれはなかなか判断が難しいものでしたからあまり自分を追い詰めないでくださいね。」
(心配させてたのか、、、)
「すみません、、、」
「結果、花房さんは助かりましたから大丈夫ですよ。」
その時扉がゆっくりと開き、外に出ていた日奈瀬さん、ツバメさんそして丹兎先輩が帰ってきた。
「まぁ、助かったのは両親だけだったけどな、、」
入ってくるなりポツリと日奈瀬さんが口をこぼす。
(、、!じゃあ、まさか、、、)
「、、っ!コノハ、お子さんの方は、、、」
社さんが少し顔を強ばらせて尋ねる。
ここにいるみんなが今の一言で理解出来たはずなのに頭がついていかない。
「、、ダメだった。脳で出血を起こしててダメージが酷かったんだ。その上内臓が潰れてて、正直運ばれてきた時点で、、、」
丹兎先輩が震える声で告げる。
そんな中でも二人は必死に小さな命を生かそうと手を尽くしていたのだ。
苦しい以上にほかはないだろう。
お子さんの処置に当たっていた丹兎先輩と日奈瀬さんは二人とも少し肩が震えている。
それでも涙をこぼさないのは医師としての線引きがしっかりできている証拠だ。
「こっちの柴原さんは特に問題ないよ。だけどちょっと複雑な折れ方してたから長期入院になるかもだけどな」
ツバメさんがサラッと言い流す。
「お父さんは見た目に反してそこまで酷くはなかったよ。近いうちに目を覚ますだろうね。
お母さんの方は、、こっちも手術が無事に成功すれば数日中に目を覚ますだろうって」
これで全員の状態が明らかになった。
幸いにも残された人達は重篤な人はいないらしい。
院内の雰囲気が一瞬ホッとしたようなそんな時
冷ややかな声がこだました。
「ねぇ、柚木。なんであの時お母さんの方の脳をもっとちゃんと見てあげなかったの、、?」
日奈瀬さんが厳しい顔をして問いただしてくる。
「、、それは、、」
(あれは俺の慢心だった、、大丈夫だろうと勝手に判断をして、、)
一瞬で顔の血の気が引いていく。
手先がどんどん冷えていくのが自分でも感じれるほどだ。
「もしかしたらお母さんの方に障害が残ってしまうかもしれない。柚木がもっとしっかり見ていれば発見出来ていたんじゃないのか?」
「、、あの、、あれは、、」
言葉につまる。違う、ちゃんと言わなければ、、、
あれは俺のせいだって、、
(わかっているのに、、!!)
言葉が出ない。恐いんだ、きっと。
「もちろん、ここにヘルプに来てくれたことは本当に感謝してるよ。でも来たから以上にはしっかりと、、
「コノハ、」、、。」
日奈瀬さんの言葉を遮ったのは社さんだった。
そして、
(に、、と、先輩、、)
いつの間にか俺の目の前には先輩が立っている。
俺を日奈瀬さんから覆い隠すようにしてくれていた。
「コノハ、言いすぎだ。だいたい来てくれただけでもありがたいのにそれを棚に上げて説教かい?
それは柚木くんに対して失礼に値することだ。」
「ヒナ、オレもチハルに賛成だ。
復帰初日でここまでやってくれたんだからそれはないだろ、、自分が助けれなかったからってケイに八つ当たりすんな!」
二人の言葉にハッとした日奈瀬さんは唇を噛み締めて涙を堪えている。
(違う、、日奈瀬さんの言う通りだ、、そう言わないと)
「、、ごめん、ちょっと頭冷やしてくるから、、
柚木、今日はありがとう。もう戻っててもらっていいから、、宮月部長によろしく言っといて、、」
そういうとふらりと外へ出ていってしまう。
その背中は触れたら消えてしまいそうなほどか弱く見えた。
「あっ、、ちょ、コノ、、」
一番近くにいたツバメさんが急いでその後を追う。
二人が出ていったあとの部屋は強い消毒の匂いだけが漂っていた。
「、、俺はコノハ先輩の意見も納得っちゃ納得です。
でも正直あの場所で出血していたら専門医でもないとなかなか見つけれなかったと思います。」
暗くなった空気を割くようにマコトがいう。
それを聞いて丹兎先輩が重い口を開いた。
「、、多分ヒナも苦しくて仕方なかったんだ、、、目の前で命が奪われてしまったんだから、、
でも、あの言い方はただの八つ当たりだから、、」
ごめんな、と俺に向かってつぶやく。
俺はそれに急いで首を振って自分の思いを告げる。
「違うんです。俺がもっとしっかりと見ていたら、、
日奈瀬さんの言うことはごもっともです、、」
「それでもあの言い方はコノハが悪いです。
どうか気に病まないでください。」
社さんが困ったように笑い言ってくれる。
今は正直それが辛い。
「今日は本当にありがとうございました。そろそろ戻っていただいて大丈夫ですよ。
ほらシュンタ、お前ももう大丈夫だから二人で戻りな」
そういうと社さんは奥へと入っていってしまった。
処置室の片付けをするのだろうか。
「、、そっか、、じゃあケイ、戻ろっか。
産婦人科までいっしょにいこ。」
「、、はい。」
そうして二人でそれぞれの局ヘ帰ることになった。
「ケイ、シュンタ先輩本当に助かりました。
ただ、、どうか自分を責めないでください。救急にいる以上ある程度は受け入れないといけないことなんです。」
マコトが悲しそうに笑っていう。そうだ、あいつはここの所属だからこういうことは覚悟の上でやっているのだ。
ツバメさんも社さんもそして、
(日奈瀬さんもそうなんだ、、)
ここにいないあの人のことを思う。
大丈夫だろうか。あんな表情をするなんて、、
「またシフト表ちょーだいね。小児との兼ね合いもあるから」
最後にそう言い救急を後にした。
二人でしばらく無言で歩いていると丹兎先輩が小さい声で俺に話しかける。
「、、本当にごめんな、、ヒナだって多分頭ん中ぐちゃぐちゃになっちゃったんだ、、本当はあんなやつじゃないんだよ」
「はい、、日奈瀬さん大丈夫でしょうか、、」
思わず口から溢れ出す。
「大丈夫だぞ、ツバメが追いかけてくれたからな!
ああいう時はツバメみたいなやつが一番安心したようになんだ!!」
先輩がニカッと笑い飛ばす。
良かった先輩も通常運転に戻っているらしい。
「そうですね、、というかなんで先輩は救急にいたんですか?それにシフト表って、、、」
「あぁ!!それはな、オレ今救急と小児のかけ持ちしてんだ!救急小児治療の勉強をしたくって!頑張ってダブルボート目指してんの!!」
初耳だ。
しかしこう見えてこの先輩はかなり頭が切れる。
掛け持ちもサラリとこなしているのだろう。
「、、救急医療か、、」
(俺も、、救急にいたんだよな、、)
社さんが言っていたことを思い出す。
そういえば俺もあの現場にいたらしい。
「??どーした!?なんか気になるのか!」
「いえ、、ただ俺も救急に挑戦してみたいなとちょっと思いまして、、」
すると先輩は少し驚いた後なんとも言えない表情をして俺にいう。
「、、救急か、、多分ケイが思ってる以上に苦しい現場だぞ、、正直おすすめはできない。それでも、、」
一瞬言葉を途切れさせる。
そうして改めて俺の目を見て決心をしたかのように先輩が言ってくる。
「それでもケイが挑戦したいならオレは全力で応援するぞ!!」
そんなことを話しながらそれぞれが自分の持ち場へと戻って行った。
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