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「ってて、、って!日奈瀬さん!?どうしてここから、、」
馴染みのある声に顔をあげるとそこには深い森林を思わせる緑色の瞳が広がっていた。少し遅れて爽やかな香りが鼻をくすぐる。
「えっ!?柚木!!なんでここに、、??」
もう少しすれば鼻と鼻が触れそうだ。久しぶりにこんなに近くにケイが居る。そんなことを考えているとふと彼の耳が目に入る。
(、、へ?ケイ耳が赤いような、、?)
初対面では表情に乏しいと思われがちなケイだが、実はかなり感情が豊かだ。現に今も目をぱちぱちとさせている。
目を色々な方向に彷徨わせたあとおれの後ろの壁を見ながらボソリとつぶやく
「あの、、日奈瀬さん、、その、なんというか、、」
非常に言いにくそうに口をモゴモゴさせている。
(、、?なんだ、おれなんか変なことを、、、)
そういえば足がいつもより涼しい、、、そう思い現在の自分の状況を思い返してみると大変なことを忘れていた。
「その、、なんでそんな格好を、、」
「!!っこれは、、、」
一気に顔に熱が集まる。急いで隠そうにも白衣だけでは足までは覆えない。何とか弁解しなくては、、さもなければ、、
(ケイに、、、なんと思われるか、、、)
頭の中で"なんでこの人こんな格好してんだ"と冷えた目を向けるケイが現れる。さすがにまずい。
「あっ、、あぁ、今度のハロウィンの衣装なんだけど一着男物が足りなくって、、それで女性用で一番サイズがあったのがおれで、、」
何とか説明しようとするがなかなかに言葉が出てこない。
それを誤魔化すかのように手をバンバンと振り回す。
(あーー!!何言ってんだおれ、、、)
言えば言うほど恥ずかしさが込み上げてきて言葉が窄んでいく。最終的には先程のケイと同じように口をモゴモゴとさせてしまう。
「、、とりあえず体起こしますね、っと!」
まともにケイの顔を見られずなにか言っていたのに聴き逃してしまう。そう思い聞き返そうとした次には景色が回っていた。
「は?、、えっちょ、ま!ふにゃ!!」
なんとも情けない声をあげて後ろへと倒れ込む。今度こそ頭を打つ!そう思い衝撃に備えてギュッと目を強く閉じているがいくら待てども痛みは広がらなかった。
(あれ、、痛くない?)
恐る恐る目を開けてみるとさっきよりも一層近くにケイの顔があった。
「すみません、いきなりすぎましたよね。大丈夫でしたか?」
さっきまでの耳の赤さはどこへ行ったのやらおれの目をまっすぐ見てくる。瞳の奥には柔らかな雰囲気を潜めている。以前のケイと何ら変わりのない。
「あ、、うん。大丈夫。、、てか近いから、、」
また顔の熱が集まってくるのがわかった。その顔を見せないようにサッとケイの上から逃げるようにどく。そのままゆっくりと手を差し伸べて声をかける。
「ごめんね。ほら、柚木も立って!」
ケイは少しキョトンとした後慌てておれの腕を掴んだ。しっかりと感触を掴んでそのまま勢いよくケイを起こす。
そしてぱっぱとお互いの白衣をはたいて再び向かい合う。
「ふぅ、、で、なんで柚木はここに?何かあったのか?」
改めてケイに尋ねるとハッとして近くの机に置いてあった紙束を掴んで来た。かなりの枚数があるようだ。
「宮月部長から日奈瀬さんに資料を届けに来ました。ほらあの机の上の。というか、日奈瀬さんこそどうしてあんなところに?」
(うっ、、それは、、)
『いやぁ、じつは先輩に閉じ込められちゃって!あはは』
なんて言える度胸はあいにく持ち合わせていない。なので何となくぼかしてしまう。
「まぁ、、そのいろいろ、、それより!資料ありがとう。助かったよ!」
即座に話題を変えるべくそのまま机にある資料に駆け寄る。そこには頼んでおいた事例をまとめたものがずらりと並んでいた。さすがは仕事の鬼と称される宮月部長だ。
パラパラっとめくっていくとある一枚に目が止まる。それには付箋で"機密 ひな用"と少し癖の強い宮月部長の字があった。
(!!もしかして、頼んでたあのことの!!)
ケイのことを一旦置いておいて食い入るように資料に目を通す。しかし思うようにはいかず書いてあったのは"現時点では不明、調査続行"という無情な羅列だった。
小さくため息をつき、そっと机に戻す。
「一体なんの資料何ですか?」
ニョキっと後ろから覗き込まれる。見られても支障は特にないが何となく悪戯心が湧きケイに見えないように隠す。
「んーー、ちょっと人を探してて宮月部長に手伝ってもらってるから、多分その資料かな」
ケイは何かを察したらしくそれ以上は追求してこなかった。やっぱりいい子だ。こうやって人のことを無意識に気遣える。
(はぁ、、でももうちょい進歩あっても良かったんだかな。)
「そう簡単にはいかないか、、」
自然と口からこぼれる。かなり小さい声だったからケイには聞こえなかったらしい。
「あの、、」
少し心配そうにこちらを見やる。そういえばケイの前ではかなり弱い姿を見せてしまっているからそれもあって心配させているのだろう。
「あーー!!こっちも運んでくれたのか!重かっただろ?!ありがとう!」
何かを声をかけようとするケイを遮ってもう一方の資料に手を伸ばす。こっちは個人的なものではなく色々な事例をまとめたものだ。
ざっと目を通し先程と同じように机に置く。あとで嫌という程マコトに読ませてやろう。
(あいつ絶対ヒーヒー言いながら読むんだろうな、、)
とりあえず新人と研修医の名前を書いておいてあとでそれぞれのデスクに置くことに決める。おそらくみんな恨みの目を向けられるだろうなと若干後の自分に同情しておく。
「よし。ありがとうな、柚木!助かったよ。また改めてお礼するから。」
ここまでしてもらったのにお礼をしないのは礼儀に反する。と言ってもそんなに高いものはあげられないが食堂一週間程度だったら喜んで奢らせてもらおう。
するとケイは少し考え込んだ後あっ、と何かを思いついたようで少しソワソワしながら口を開く。
「それなら、、お礼はいいので俺のことを下の名前で呼んで貰えませんか?」
それはおれの予想を超える所ではないお願いだった。
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