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プロローグ
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よく晴れた三月のある日、当時小学五年生の蒼太(そうた)は家族で遊園地に来ていた。二週間と短い春休みを家でゴロゴロして終わらすのが嫌だった蒼太が、昨日一日春休みの予定に抗議をして得た今日である。
春休みが明けたらついに最高学年である六年生になる蒼太は、五年生の身体検査でオメガ性であることが分かっていた。小さく細い首にしっかりと巻かれた防衛チョーカーのせいでジェットコースターなどの乗り物は乗れない。それでも遊園地は楽しい。
子供でも運転出来るゴーカートで、盛大に曲がり損ねてタイヤに衝突した事故でのちょっとした怪我で、いつまでも泣き喚く二歳下の弟を引っ張りながら次はお化け屋敷に行こうと息巻く。
お化け屋敷は想像よりも怖そうな見た目で、親を呼びに戻ろうかと蒼太が考えていると、弟が叫びながら逃げて行ってしまった。蒼太には一人で入る勇気なんてないので、弟を捕まえに戻ろうとした時、嗅いだことのない良い匂いがした。
反射的に匂いのする方を向けば、見たことがないほど美しい男の子が立っていた。――蒼太は初めて同じくらいの歳の番の居ないアルファを見た。
全ての者を魅了するような雰囲気に蒼太は呑まれた。
男の子がゆっくりと歩いてこちらに近付いて来る。ドキンドキンと煩い心臓の音ばかり聞こえ、周りの音が遠くなって行く。
目の前に来た男の子は絵画から抜け出して来たようで、あまりに整ったその顔に蒼太は頭のてっぺんまで全身鳥肌が立った。目が離せない。
「ねぇ、君が僕の運命の相手? 他のオメガとは違って、とっても良い匂い」
蒼太は固まったまま、男の子の長いまつ毛が瞬きをするを見た。男の子は蒼太の首元に顔を寄せると、すぅっと匂いを嗅いだ。
オメガの防衛本能が、首に他人が近付くことを許さない。慌てて後ろに下がり距離を取る。
「どうしたの? 僕のオメガだよね? ……首、噛んでも良いよね?」
蒼太はゾッとして首の後ろを左手で守るように押さえた。
「俺は誰の物でもない。運命なんて関係ない! 心で好きになった奴と結婚するんだ!」
二歩三歩と後退りながら蒼太は叫んだ。男の子はきょとんとした顔で蒼太を見る。蒼太はオメガである自分を軽んじたこの男の子に腹が立っていたので、美しいその顔を睨む。
蒼太に拒絶されたことに気付いた男の子は、ショックを受け、目を見開く。何か言おうとして口を開くが、予想していなかった事態に何も言葉が出て来ず、そのまま閉じるのを蒼太はただ見ていた。
男の子の方から誘うにように流れてくるこの香りは、蒼太の頭をクラクラとさせた。体は男の子の方に進みたがっていたが蒼太は重い脚を無理やり動かし、後ろに下がった。
何も言えずに地面を見つめてしまった男の子が傷付いているのが、蒼太には何故かよく分かり、リンクしているかのように胸がズキリと痛む。それでもベータの恋に夢見る少年である蒼太は、男の子のあの目が見ていないうちにと、その場を走り去った。
匂いから逃げるようにひたすら走って、両親と弟の元へ着いた時には汗でびっしょり濡れていた。驚く両親には、具合が悪いとしか言わなかった。
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