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◇◇◇
「それでは、今日のホームルームはここまで。先生はみんなとこれから一年間楽しい思い出をたくさん作っていきたい。みんな、今日からよろしくな」
担任の先生がそう言って、入学式後のホームルームは終わった。
蒼太の所属する一年一組は三十人クラスで、アルファが三人、ベータが十七人、オメガが十人、男女比率は五対五だ。この学校は個性を尊重する校風なので、さまざまな性の人が集まっている。これがこの学校を蒼太が志望した一番の理由である。性に囚われずに自由に学び、過ごせる学校は蒼太の考え方にとても合っていた。
後ろから背中をツンツンと突かれ、振り返ればそこには出席番号が一つ違いの――入学式でも後ろに居たアルファの男の子が頬を膨らませて蒼太を見ている。
「さっきはよくも恥をかかせてくれたね?」
勝手に叫んだだけだろうと思った。そしてその様子を思い出し、思わず笑う。あの場に居た全員の視線が集まっていたように思う。
「あ! 笑うな! 君のせいだよ、森山 蒼太(もりやま そうた)君」
名前を呼ばれて驚く。教えた覚えはない。
「なんで名前を知っているの?」
「なんでって……先生が配った席順の紙に全員の名前が書いてあるから覚えただけだよ」
目をぱちくりさせて男の子は言う。ああ、やっぱりアルファはまつ毛が長いと、どうでも良いことを考えた。
「クラス全員の名前を?」
「うん」
仲良くなれるかもと思ったが、やはりアルファは何もかもが違う。顔も知能も……当たり前だってきっと違うのだ。
さっき恥をかいて顔を赤くしていた時はあんなに近くに感じたのに、急に遠い存在になる。目の前にある顔は現実味がなくて、テレビの画面越しに観るように蒼太はその透き通った肌を眺めた。
「……もう名前を覚えているのって変かな? 早くみんなと仲良くなりたかったんだけど」
アルファの男の子はそう言って長いまつ毛を伏せた。山の天気のようにクルクルと目まぐるしく変わる表情は、浮かない顔になっていた。
「変なら覚えなかったことにするよ。森山君、みんなには内緒にしてくれる?」
この男の子に潤んだ瞳で頼まれて、断れる人間なんて居ないだろう。蒼太もその瞳に囚われて頷きそうになったが既のところで踏み止まる。
「いや、名前を早く覚えられるのも個性だから隠すことなんてないよ。ここは個性を認める学校でしょ?」
そう言いながら蒼太は、アルファの優れた能力を前に、心の壁を作りかけていたことを恥じた。アルファだから、オメガだから――そういったことが嫌でこの学校を選んだのに、蒼太は勝手にアルファである男の子に対して距離を感じてしまっていた。
例え、この男の子が蒼太を対等に思っていなくても、蒼太は対等だと思って、そう接するべきなのだ。そうしなければこの学校を選んだ意味がない。
「……ありがとう」
男の子は蒼太にふんわりと笑いかけた。その瞬間、男の子からぶわりとフェロモンが溢れて蒼太を優しく包み込んだ。爽やかでいながらほんのりした甘さを孕んだその香りに呑み込まれて、蒼太は少しくらりとした。
この学校で暮らしていくならアルファのフェロモンにもっと慣れなければいけなそうだ。
「君の名前は何て言うの? 俺はまだ席順の紙をちゃんと見ていないんだ。先生の話をぼ〜っと聞いていた」
蒼太がそう言えば、男の子は笑った。笑う度に、心地の良い香りがどんどん溢れ出る。
「俺の名前は月見山 春稀(やまなし はるき)だよ。月見に山でヤマナシって読むんだ」
アルファの男の子――春稀は丁寧に自身の名前を教えてくれた。
「珍しい苗字だね」
「そうかも」
珍しい苗字も自慢ポイントな気がするが、春稀はやっぱり自慢しない。蒼太が持つアルファのイメージよりずっと庶民的な春稀を蒼太はもう気に入っていた。
「俺のことは蒼太で良いよ」
「じゃあ、俺のことは春稀って呼んで!」
入学式でこんな素敵な友達が出来るなんて、蒼太は最高の気分で春稀と一緒に下校した。隣を歩いていると常に周りに溢れる春稀の香りは、今まで嗅いだどの香りよりも邪魔じゃなくて心地良い控えめな香りだった。自分の香りも春稀の苦手な匂いじゃなければ良いなと蒼太は思った。
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