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雅の実家を立つ日の朝、爽は盛大に別れを惜しまれた。
雅が「今生の別れじゃあるまいし」と呆れるほど、祖母は「いつでもおいで」と涙ぐみ、祖父は「またいらっしゃい」と手を振った。
聖志は爽が疲れていないか気遣い、悟矢は冬休みの課題も手伝ってくれと懇願した。
そんな弟を雅は「自力でやれ」と切り捨てたが、爽は「いいよ」と笑って答えた。
帰りの新幹線の中でうとうとする爽に雅は聞いた。
「来年も畑、手伝ってくれますか?」
ぼんやりとした表情のまま眠そうな声で爽が答える。
「悟矢くんの冬休みの課題手伝うから…」
爽は自分の実家に年末年始も帰省する気はないのだろう。
何年くらい帰ってないのか知らないが、ご両親は心配じゃないんだろうか?
このままでいいのかな?
自分が口を挟めるような事情でないことは知っている。
週明けのたびに少し辛そうな顔で出勤していた爽も今は月曜日を何とか平常に迎えている。
連休や夏冬の休みが終わるとぐったりしていた爽だが、その度合いも最近は軽減した。
そして今、隣で船をこいでいる爽は多分、今までで一番元気そうだ。
冬休みもこうやって、こんな顔で終えられたらいい。
虚ろな目で休み明けを迎える爽は、もう見たくない。
「爽さん、冬はね、うちのあたりすごく雪が積もって、雪下ろしに人手がいるんです。手伝いに来てくれますか?」
隣を見るとすでに眠っていて返事はない。
爽と雅が住んでいるところは滅多に雪が降らない。
爽は九州育ちで太平洋側なので雪はほとんど見たことが無いと言っていた。
きっとあの雪深さには驚くだろう。
大きな掘り炬燵で鍋を食べて、寝る時には猫の奪い合いをして…。
雪の降る音にどんな反応をするだろう。
雪が積もると音の聞こえ方が変わる不思議な静けさをどう感じるだろう。
風のない晴天の日に新雪の上に寝転んで空を見たい。
滅多に見れないあの青さは他の土地には無いものだ。
爽さんもきれいだと思ってくれるかな?
雅は爽につられるようにして目を閉じた。
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