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あの時は勢いで冬休みも行くと言ってしまったが、どうしようか。
まだ9月だというのに、そんな先のことを考える爽。
約束は反故にしたくない。でも、自分は楽しんでいいのかという思いも消せないでいる。
理性では分かっている。楽しむことに罪悪感など持たなくても良いと。
しかし、感情はついていかない。亡くなった妻に対する引け目はいつも感じている。
自分は人殺しなんだと己を責めることは減った。
積極的にやろうとはしない。
しかし、ふとした拍子に頭をもたげる。
その度に、それを否定したり、開き直ったりで疲れるが、以前よりはうまくコントロールできるようになった。
冬までまだ何か月もある。後で考えよう。
先延ばしは悪いことじゃないとカウンセラーから教わった。
むしろ今の爽には必要なスキルらしい。
冬のことは秋になってから、と爽は大雑把に思考を終わらせた。
爽がそんなことを考えている頃、小出は冬より手前のことを考えていた。
小出が爽と初めて顔を合わせた日は双方とも独身だった。
小出が自分は爽に惹かれていると気付いた時、爽はすでに結婚していた。
恋を自覚した瞬間に失恋した。
爽を奪うだの不倫だのは選択肢になかった。
諦めようとした。
諦めきれずに数年を過ごし、ようやく熾火になった頃、爽の妻が亡くなったと知らされた。
悲しかった。悲しむ爽を見るのがつらかった。
ショックだった。表情を失った爽の様子にひどく心が痛んだ。
チャンスとは考えなかった。それは人の不幸を踏み台にするようで嫌だった。
爽の回復を願いつつ、支えになりたい、何か自分に出来ることはないかと考えたが、そのどれもが詰まるところ自分アピールだと気付いて自己嫌悪に陥った。
何も出来なかった。
ただ普通に接する。今までと同じように会社でおはようと挨拶を交わし、仕事の話をして、時に冗談を言って、お疲れ様でしたと言って帰る。それだけしかできなかった。
腫物を触るような態度はむしろ傷付けるから、努めて普段通りに。それが精一杯だった。
顔色の悪い爽を見る度、何もできないもどかしさを感じていた。
いつしか彼女は爽が元気になったら告白しようと決めていた。
何年かかるか分からない、いつになるのか見当もつかない、それでもそうするつもりでいた。
きっとかなり先になる。そう覚悟していた。
ところが、回復のスピードがいきなり上がった。
薄皮をむくように僅かずつだったものが、ここへ来て突然、日焼けした爽が笑いながら夏休みの話をしている。
驚いた。そして今なら大丈夫なのではないかと気が急いた。
しかし、ひたすら待っていた身の小出。
今更どうアプローチして良いか分からない。
女子高、女子短大と異性と接触する機会の少ない環境で青春時代を過ごした。
恋に不慣れ、不器用を地で行くような彼女が思いついたのは来月のイベント、ハロウィン。
小出は週1で英会話教室に通っている。
そこでは宣伝も兼ねて様々なイベントがあり、生徒の家族や友人も参加可能だ。
ハロウィンは言わずと知れた仮装パーティー。
それに誘おうと思いついたはいいが、どうやって誘おうか頭を抱えた。
さらには爽が仮装なんてするのかと想像し、するわけないだろうとへこみ、結局友人に相談することに。
短大時代から仲の良い聡凪(ふさな)には、この長い片思いの相談を数えきれないほどしてきた。
聡凪は爽の回復を小出と共に喜んでくれた。
小出は聡凪の「いきなり1対1は相手にとってもハードルが高いから何人か誘ってみれば?」という提案に頷いたものの誰を誘えばいいかで再び頭を抱えた。
「ついてきて」と泣きつく小出に聡凪は苦笑いしながら承諾した。
それから、爽にハロウィンパーティーのことを切り出そうとして、ためらうこと数日、数十回。
ようやく意を決して、心拍数をはね上げながらパーティーに誘った小出に爽は返事を保留にした。
保留という返事にがっかりする小出に聡凪は、「断られたんじゃないんだから!」と励ました。
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