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仮装といっても本格的なものでなくても良いと言われたが、爽はどうしたものかと悩んだ。
一方、小出は参加OKと返事をされて内心飛び上がらんばかりだった。
「潮海も一緒にいいか?」と聞かれて半分上の空で頷いた。
聡凪に報告すれば一緒に喜んでくれた。
彼女は仮装の衣装を一緒に買いに行けと勧めたが、それはまだハードルが高すぎたようで、小出は電話口で「無理無理無理!」と叫んだ。
小出はとある海外ドラマの外科医に扮する予定だが、それは当日まで爽には内緒だ。
片や爽は何も決まらないまま雅と一緒にハロウィングッズの売り場へ足を運んだ。
ハロウィンとは元々がケルトの祭りだ。
日本はよく言えば寛容、悪く言えば無節操な国だから何でもかんでも取り入れる。
しかも本来の意味や目的などそっちのけで、全てお祭り騒ぎにしてしまう。
だから正月に神社に行き、バレンタインにチョコを送り、訳も分からずイースターに卵や兎の形のお菓子で盛り上がり、葬式は寺に頼み、結婚式は教会で挙げ、クリスマスも本来の主役を知らずに勝手に祝う。
ハロウィンとて、日本に根付いてからそれほど長くはない。
それにもかかわらず、売り場は盛況だ。
爽は広さと人の多さだけでなく、商品の豊富さにも圧倒された。
「これ似合うんじゃないですか?」
雅が爽にコスチュームを渡す。
袋に付いてる写真はバニーガール。
「ばっ…!」
絶句する爽がおかしくて雅がさらにからかう。
セーラー服、猫の着ぐるみ、チュチュ。
雅が渡すたびに変わる爽の表情と反応が面白くて、雅は腹を抱える。
会社では見られない破顔する雅に爽はチョンマゲのかつらをかぶせて鏡を見せた。
自分の姿に吹き出し、爽と一緒に肩を震わせる雅。
いつになってもどれを買うか決まらないが、それは楽しくて、ただただ楽しい時間で…。
「じゃ、熊耳」
爽の頭にカチューシャをはめて、雅が「これならいいっしょ」と鏡を指さす。
今までさんざん奇想天外なコスチュームを見せられた後なので、抵抗感がほとんど無い。
「兎の耳よりは全然いいか…」
頭の上のふさふさした丸みのある茶色い耳を触りながら爽が鏡に映る自分を見る。
おそらく、この店に来てすぐにこれを付けたなら「無理!」と感じたことだろう。
見て回るうちに驚くほど感覚がずれたらしい。
爽は購入を決めた。
「で、お前はどれにすんだ? バニー?」
「んなわけないっす」
雅はふたつのカチューシャを爽に見せる。
「どっちがいいと思います?」
「なんでキリンとコアラなんだよ」
爽が笑いながら雅の手から取ってカチューシャをかぶせてみる。
ぷっと吹き出し、「どっちも似合わないな」と爽はそばの棚に並ぶカチューシャの中からロップイヤーを見つけて雅に勧めた。
「え~…」
爽から受け取って頭につけて鏡を見てみる。
雅は「なんか情けない感じに見えるのは気のせいじゃない気がするんですけど」と白い耳を軽く引っ張った。
「いや、良く似合ってる」
笑いをこらえながら答える爽。
「こんなん似合ってるって言われても嬉しくないんですけど」
そう言いながらも棚に戻さないところを見ると購入するつもりらしい。
目的のない会話、くだらない買い物、高尚ではない笑い。
それでも、爽はあっという間に時間が過ぎることに驚いていた。
ひとりで住むには広すぎる家に帰れば、また沈んだ気分になるのだろう。
でも今はそんなことを忘れて、そこにいなくても良い時間を有難く享受して…。
爽は単純に、帰りたくないなと思った。
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