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ハロウィンパーティー当日、小出は会場とは別に更衣のために用意された小さな部屋で深いため息をついた。
あの時は勢いで買ってしまったが、冷静になった今は恥ずかしくて仕方がない。
「着てきた服に白衣はおるだけでしょ?」
ツインテールのカチューシャウィッグを付けながら鏡で確認している聡凪がちらりと小出の顔を見る。
この期に及んで尻込みしても、もう遅いぞ、親友。
「ほら、行くわよ」
ミニ丈のチャイナドレスに身を包んだ聡凪が激励の意味を込めて小出の肩をたたく。
「大丈夫。可愛いし、似合ってるから」
「…う、うん…」
「意識しすぎると挙動不審になるよ?」
「う…」
「Just have fun!!」
「Y…yeah」
重い足取りの小出の腕を引いて聡凪が歩き出す。
廊下には同じパーティーの参加者であろう仮装した年齢も肌の色もバラバラな人たちがいた。
トイレットペーパーを全身に巻き付けたマミー、羽根と輪を背負った天使、世界的に有名な歌手やスポーツ選手になり切ってる子供たち、家族総出で人気アニメのキャラクターに扮している集団もいる。
「私たちなんか仮装に入らないね」
聡凪が小声で笑う。
小出はうなずきながら、今度は安堵のため息をついた。
「お待たせしました~」
会場で待たせていた雅と爽に後ろから聡凪が声をかける。
振り向いた爽を見て小出が吹き出した。
真面目を絵に描いたような爽が熊耳カチューシャをつけている。
日頃の様子とのギャップに思わず笑ってしまったが、当の爽は口をとがらせながら困ったような恥ずかしさを耐えてるような顔。
「ご、ごめんなさい」
しかし、小出は笑いが止められない。
だが、そのおかげで緊張が解けた。
少し余裕ができた小出は隣の雅に目を転じ、再び肩を震わせる。
「小出さん…、黙って笑い続けるって、俺そんなにおかしいですか?」
ロップイヤーを引っ張りながら、相変わらずの仏頂面で雅が尋ねた。
それがいじけているように見えて、やはり普段からは想像できない様相に余計笑いが込み上げる。
「ごめん。だって、おかしくて、あ、違う。うん、似合ってるわよ」
小出は目尻を拭いながら後輩を褒めてみたが、雅は「嬉しくないっす」とムッとして見せた。
その表情も、これまた面白いものだから、小出はすっかりリラックスできた。
それを見て聡凪も、肩の力を抜いてパーティーを楽しむことにした。
聡凪はなるべく雅の相手をするようにして、親友が片恋の相手といられるように立ち回る。
その小出も今は爽とゲームに興じ、最初の緊張は鳴りを潜めている。
「潮海君、頼みがあるの」
勝ち抜きゲームで先に脱落して会場の後ろのほうに移動していた聡凪が、ゲームでペアを組んでいた雅に切り出した。
「なんですか?」
「今日、私は海音さんがどんな人か、確認するためにここに来ました」
「はぁ…」
「祥子の言う通り、いい人だと思います」
「…?…」
話がどこへ行くのかと思いながら雅は唐突な人物評に曖昧な頷きを返した。
壁際のテーブルからグラスを取り、聡凪が続ける。
「祥子は私の大事な親友なの。だから、海音さんともっと仲良くなれたらいいなと思ってます」
「そうですね」
突然、聡凪がくるっと顔を上げ、表情を一変させる。
「でしょ⁉ ってか、気付いてたの?」
雅はステージ近くにいる爽と小出に目をやった。
勝ち進んだのか、拍手の中で二人が笑っている。
「そもそも小出さんが爽さんをパーティーに誘った時点で、俺は小出さんの目当ては予想できましたよ。爽さんは鈍いから気付いてなかったみたいですけど」
「で、潮海君は助けてくれるの? それとも傍観?」
邪魔をするつもりはない。
他人の恋路をどうこうして楽しむ趣味は無いし、ゴシップにも興味はない。
積極的に手伝うつもりは無いが、基本的には賛成だ。
短い期間とはいえ今まで爽を見てきて、彼がどれだけ寂しい思いでいるか知ることができた。
妻を亡くし、ひとりきりで彼女と過ごした新居に住み続ける爽。
思い出の詰まった家は離れがたいのに、でも、そこにいるのは苦痛で、亡き妻の影を追いかけて、抱きしめて、眠っている。
彼には誰か支えになる人が必要だ。
それも、できれば女性がいい、そう雅は考えていた。
だから小出がアプローチしてきたのはチャンスと捉えた。
これで爽が寂しさを埋められたらいい。新しく恋を始めて、いつか一緒に暮らしたら幸せになれるんじゃないか。
そう考えていたのだ。
「小出さんはいい人だと思います。だから爽さんが小出さんを選ぶなら賛成です」
爽さんをよろしくと頼むのも変だなと思いつつ、保護者のような気持ちで小出に託すようなセリフを吐きそうになる。
「じゃ、協力して?」
聡凪はこのパーティーが終わったら小出たちとは別れて帰ろうと雅に提案した。
爽と小出を送り出し、自分は雅と帰ると言って二人きりにさせるというのだ。
パーティーが終わるのは夕方。
少し早めの食事に行くもよし、軽く飲むのもよし、そう考えての提案だった。
予定時刻を少々オーバーしてパーティーが終わると聡凪は雅も賛成したプランを実行すべく更衣室で親友に爽と二人で帰れと命じた。
「無理!無理無理無理無理」
予想通り泣きつく小出に聡凪は、最初こそ突っぱねていたものの、彼女の余りの緊張ぶりに予定を変更。
4人で食事に行くことになった。
雅はどちらでも良いと思っていたので3人の後ろから駅のほうへ歩きながら、適当な店を探す。
待たずに入れそうなイタリアンレストランを見つけ4人で入った。
聡凪は爽の隣へ座れと親友の肩を押し、小出はぶんぶんと首を横に振って聡凪の隣に腰を下ろす。
このままでは進展しないな、と食事をしながら聡凪はこの後の計画を頭の中で練った。
小出としてはここまで距離を縮められたなら満足なのだが、聡凪はそれを許さない。
そこで聡凪はレストランを出た後、小出と爽を置いて、「私、潮海くんに送ってもらうから」と去ってしまった。
爽と二人きりという状況に再び緊張する小出。
あからさまだなと爽は内心苦笑しながら、「小出さんち、どっち?」と赤面しながら固まる彼女に声をかけた。
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