アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
27
-
ハロウィンパーティーの翌週末、雅の家ではおなじみの料理教室が開かれていた。
怖くて揚げ物なんかできないという爽の本日の課題は野菜の天ぷら。
爽の抗議は受け付けず、「覚えれば簡単ですから」と雅は手本を見せた。
衣は冷水で小麦粉を溶く。その際、混ぜすぎないこと。油の温度は衣を一滴落としてすぐに浮き上がってくるくらい。
「で、静かに落とせばいいだけです」
と、簡単そうに雅は言うが、爽は既に後ずさっている。
「はい、やってみてください」
押し付けるように渡された箸を受け取り爽が固まる。
しばしの逡巡の後、覚悟を決めて爽は衣をまとわせた野菜を油の中へ。
「うぉっ」
音だけで爽は逃げたりのけぞったり。油が跳ねれば「あち!」と大騒ぎ。
その様子に雅が笑う。
夕食を作っているだけなのにコメディでも演じているかのようだ。
それでも爽はなんとか初の天ぷらを作り終えた。
2人で並んで「いただきます」と手を合わせて食べ始める。
焦げたり、いびつだったりと見た目の悪い天ぷらをつつきながら、会話は自然とハロウィンパーティーでのことになった。
「で、どうでした?」
「何が?」
「小出さん、家まで送ったんですよね?」
「ああ」
レンコンが薄すぎてパリパリになってしまった天ぷらを、爽は失敗だなと思いながら咀嚼する。
「何か進展あったんですか?」
「何が?」
鈍すぎる。
雅は爽ががっつくタイプではないのは知っているが、それにしても鈍感すぎだろうと呆れた。
「告られたりとか、なかったんですか?」
「別に、なかったけど…?」
小出が前進できなかった可能性は大いにある。
もしかしたら遠回しに告白していたかもしれないが、爽には通じなかった可能性も同じくらいあるだろう。
どちらなのか分からないが、この二人では急展開は無いだろうと思いながら、雅は少し焦げたさつま芋の天ぷらを口に入れた。
仕事帰りのデートに誘う勇気は小出には無かった。
通勤に使う路線も違うし、方向も逆。
そもそも周囲に知られるなど恥ずかしすぎる小出にとっては、会社の最寄駅周辺で爽と食事をすることすらリスキーだ。
そうやってもだもだしている内に11月が終わり、12月が始まってしまった。
聡凪はハロウィン以来、何の変化も無い親友と爽の関係にもやもやし、ことあるごとに小出に発破をかけた。
クリスマスイルミネーションでも見に行けという聡凪に、カップルでいっぱいの中を爽と二人きりで、しかも夜になんてと尻込みする小出。
12月ともなればクリスマスデートを狙ったイベントは目白押しだし、期間限定のデートスポットもあちこちに作られる。
爽は飲酒できないと聞いてはいたのでアルコールを出すような店でのデートはしていないとは思っていたが、仕事帰りに映画のひとつも観に行っていないと聞いて聡凪はさらに小出の尻を叩いた。
「じゃぁ、もう、祥子の家に呼んじゃえば?」
「ええぇぇぇっ!」
「ホムパよ、ホムパ」
「無理無理無理! 絶対無理!」
ハロウィン以来、二人で食事に行くことすらできていないのに、いきなり自宅になど呼べるわけがない。
しかも小出は実家暮らしだ。
「せめて中学生レベルのデートくらいしたら?」
「?」
「ディナーがハードル高いなら、ランチ行くとか。お父さん用のクリスマスプレゼント買うから、男性の意見も聞きたいとか言って誘えばいいじゃん」
「ムーリー! お父さんなんてワード、誤解されるよ!」
それもそうかと思い、聡凪はどうにかクリスマスデートさせようと、あれこれ提案した。
そして結局、落ち着いたのは―。
「英会話教室のクリパ…って、代わり映えしないわね…」
小出が緊張せず、聡凪も参加できて、爽も誰かと一緒に来ることが可能。
この条件を満たすのはそれしかなかったのだ。
「い、いいでしょ⁉」
今の小出にはこれが限界かと、姉のような心境で聡凪は温かく見守ることにした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
27 / 49