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小出は聡凪に諦めろと言われた。
惚れた腫れたの話ならばいずれは冷めるから、時間と距離を置け、と。
今まで応援してくれてたのに突然なぜそんなことを、と小出は泣きながら怒った。
聡凪は親友だからこそ、大切な友達だからこそ言うのだと、申し訳なさそうに理由を明かした。
爽の話をする小出は最初は微笑ましかった。
相手が妻帯者と知って一度は止めたが、片恋でもきれいになっていく様に、しばらくは様子を見ようと思った。
爽の妻が亡くなり、小出まで悲しむものだから、これをチャンスと捉えないきれいな心の持ち主なんだなと、聡凪は自分の醜さに苦笑した。
爽の働きすぎを心配し、ついに休職となった彼の身を案じる小出は健気に思えた。
そこでしゃしゃり出ない小出はいじらしかった。
会社に戻ってきた爽が無理している様子は見ていて辛いと小出は言った。
どう接したら良いか分からないという小出と一緒に悩んだ。
徐々に回復する爽を喜ぶ小出は同性から見ても可愛かった。
言うつもりのなかった小出が告白しようかと迷っていた時、幸せを願った。
しかし、小出が爽を知れば知るほど聡凪は暗澹たる気持ちになっていった。
好きだろうと何だろうと結婚相手としては荷が重すぎるのではないだろうか?
聡凪は小出の心配をした。
互いの荷物を背負い合い、共に歩むのが結婚とはいえ爽の抱えるものは小出にとって荷が勝ちすぎではないのか?
しかも、その状態で爽は小出の荷を負えるのか?
できないなら“背負い合う”ではなくなる。
そんな道を歩かせたくない。
親友を、苦労することが分かっている道に行かせたくない。
聡凪は、だから小出を止めた。
世の中には爽以外の男はたくさんいる。
恋愛感情だけで結婚はできない。
もう少し計算高くなった方がいい。
聡凪はそう言って親友に思いとどまるよう伝えた。
小出は何も言えなくなった。
親友にここまで心配させているとは。
しかし、安易に大丈夫とは言えなかった。
聡凪の心配も分かる。
自分も不安だ。
自分に出来るのか出来ないのかすらわからない。
だからこそ設けたお試し期間。
しかし、それがいつまで続くのか?
結婚を選択肢の外へ置いたお試し期間は、もしかしたらぬるま湯なのかもしれない。
結論を出さぬままその状態を続けていることを、望んでいないと言い切れない。
しかし、それは爽にとってどうなのだろう?
爽はどうしたいだろう?
小出は好きな相手の幸せより自分の楽しい方を選んでないかと自らを責めた。
自分は爽とどうなりたい? どうしたい?
結婚したら、こうやって自分を責めることが日常になるのか?
全く彼を傷付けずに一生を終えるなんてありえない。
しかし、傷付けたなら自分はひどく後悔する。
そのために頭を悩ませ、心をすり減らし、傷付けるたびに自分が傷付く。
そんな生活は何年くらい持つのだろう?
見捨てたくない。でも自分だけが彼を支えられるなんで思い上がるのは嫌だ。
自己実現のために爽を利用してないか?
自分の存在意義を爽に依存してないか?
それでは共依存ではないか?
爽と小出に何の進展もないまま7月になった。
時々はデートをしている。
それなりには楽しい。
だが、妙な緊張感があったり、小出が考え込んでしまったり、爽もそれを見て迷ってしまい、二人がぎくしゃくしているのは事実だった。
自分は爽を愛しているのだろうか?
小出は爽と出かけると毎回、帰宅と同時に泣きたい気分になって自室へ駆け込む。
しかし、たいがいは泣きもせず脱力し、着替えもしないまま座り込む。
気を張っているせいか疲れる。
そんなデートを心から楽しむことなんてできない。
単なるお節介焼きなのか?
病を患った爽が心配なだけなのではないのか?
ここら辺が限界か?
聡凪の言葉が脳裏をよぎる。
計算高く―。
犠牲を払う意味は? 価値は? そして、対価は?
親友からは、与えるだけで満足なんてきれいごと言ってはいられないとも忠告された。
では、与えて得るものは何?
お試し期間に無理だと判明してラッキーだったと捉えるべきか?
結婚してから無理だったのだと気付くより傷は小さい。
それなら、お試し期間に意味はあったと言える。
本当はもっと知って、もっと結婚が具体的になるはずだったのでは?
いや、それは期待だ。
そうならない可能性を判別するための期間でもあったはずだ。
だからこれで良かったのだ。
小出はそう思い込もうとした。
自分で自分を説得していて虚しくなった。
馬鹿馬鹿しくて涙が出た。
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