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また誰かのすすり泣く声が聞こえてくる。
爽はそれを聞きながら、もし自分が死んだら誰が泣いてくれるだろうと考えた。
疎遠になってしまっている両親も、今頃は心配して何とか連絡を取ろうと手を尽くしているかもしれない。
彼らは多分、泣いてくれるだろう。
ここを出られたら九州に電話しよう。
そう考えてから、もっと先に声を聞きたい相手がいることに気付く。
あいつは泣いてくれるかな?
雅の顔を思い浮かべて、泣いている姿など想像できないなと内心笑う。
泣いてくれなくていいから会いたい。
生きてここを出て会いたい。
誰よりも真っ先に会いたい。
一緒に海に行ってくれた。
乗り越えたいと思わせてくれた。
それを支えてくれた。
他の誰かだったら、乗り越えられるかもしれないとさえ思わなかっただろう。
そばにいると安心する。落ち着く。ほっとする。
仮にこれを女性、例えば小出に言ったとする。
『小出のそばにいると落ち着くんだ』
ほぼプロポーズだ。
あいつと長く付き合いたい? 一生? その付き合うって何? どの関係?
この気持ちは、感情は……恋慕?
爽は顔が熱くなるのを感じた。
自分はストレートだ。親友じゃダメなのか?
多分違う。足りない。親友じゃ、足りない。
あいつに恋人ができたら? 誰かと結婚したら?
祝ってやれない。渡したくない。
俺から離れるなと言いたくなるし、想像だけで腹が立つ。
おかしくないか、俺?
それは依存じゃないのか?
違う。依存じゃない。
そうじゃなくて、多分、いや、確実にこれは独占欲だ。
雅は社長室のソファの上でふと目を覚まし時計を見た。
日付は変わったばかりのようだ。
爽のことを考えながら暗い天井を見上げる。
無事だろうか? どこかで眠ることはできてるだろうか?
心配にため息をつき寝返りを打つ。
爽さんが帰ってきたら何をしよう?
きっとお腹を空かせてるだろうから、食べたいものを作ってあげよう。
疲れてるだろうからしっかり眠らせてあげて、起きたら、そうだな、かき氷でも、あ、氷は溶けちゃってるな…。
…でも、帰ってこなかったら、そんなこともできないんだよな。
いやいや、帰ってくるって。
でも、100%じゃない。
二度と会えないなんて、そんなの嫌だ。
初めて会った時は能面のようだった顔が表情を取り戻した。
作り物だった笑顔が楽しそうなものに変わった。
海へ行けたことを喜んでた。
人魚の祠へも行けた。
元気になっていく姿が嬉しかった。
もっとそれを見たい。そばで見続けたい。
もっと元気になれる。そばでそれを手伝いたい。
自分をもっと頼ってくれていい。いや、他の誰かじゃなくて、自分を頼ってほしい。
甘やかしたい。甘えさせたい。
失いたくない。
もし、死んだら神をののしるだろう。返せとわめいて叫んで、つかめるものなら胸倉つかんで抗議するだろう。
なぜ欲しいんだろ?
わからない。でも、誰にも渡したくない。相手が死神だろうと天使だろうと許さない。
なぜだか手元に置いておきたくなる。すぐ近くで守りたくなる。そして、全部を預けてほしくなる。
この気持ちの名称が思いつかない。
名前を付けることのできないこの感情は、しかし、おかしくないか?
…おかしいかもしれない。
でも、おかしかろうと何だろうと、黙ってそのままには、もう出来ない。
こんな地震など起こらなければ思わなかっただろう。
今までの日常が続いていたら言わずに蓋をするか、見ないふりを決め込んでいただろう。
だが、言わずに生命が終わってしまう可能性を突き付けられた今、それはもう出来ない。
雅は爽の安否も分からないまま決心した。
名前はない。でも、告げよう。後悔はしたくない。
と。
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