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「お疲れ」
呼び鈴を押すとほぼ同時に開くドア。
そこから顔を出す長岡の言葉に首を横に降った。
「全然疲れてませんよ。
寧ろ、元気もらっちゃいました」
ボランティア先から長岡の部屋へ。
この流れも久し振り。
三条は、ほんの少しはにかんだ。
腕を引かれ入室を急かされる。
お邪魔します、と声をかけて入室し靴を脱ぐ。
揃えようと身を屈めると、それを制された。
どうしたのかと見上げた先には今にも抱き締めそうな顔をした恋人。
「小学生なんて元気の塊だろ。
高校の教師で良かったって思うけど、遥登は小学校も似合いそうだな」
「そうですか?」
「でも、古典教えんなら高校をお勧めすんぞ。
くそ生意気だけど、同じだけ嬉しい事も沢山ある。
例えば、ロマンを拾ってくれたりな」
高校の教師が良いというより、古典を教えるなら高校の方が深く携われるからそちらが良い。
それは、進路相談で話した時と気持ちは変わってはいない。
美しい情景や、切ない気持ち、泣き喚きたいほど儚く脆い話の数々。
いつの時代もかわらない人間の奥底の気持ち。
そのロマンは、きちんと胸にある。
この種を育て、いつか誰かに分け与える事が出来たらどんなに素晴らしいか。
目の前の恋人は、その素晴らしさを知っている。
羨ましい。
けど、その種を貰ったのは自分だ。
大切な、大切な、愛おしい気持ち。
古典は素晴らしい世界だ。
「はい」
「良い返事だ」
「教えてくださった先生がすごく素敵な方でしたから。
ロマンを教えてくれた、俺の大切な人です」
それを教えてくれた人は、恋人の顔で目の前にいる。
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