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Vol.Ⅰ
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{Side A}
『こんばんはっ。』
『えっ…あ、こんばんは。』
『初めてお会いしますね。』
『はぁ…。
今日から会員になったばかりで…。』
『そうなんですか。
きっとよく顔を合わせることになると思うから、
宜しくのご挨拶です、ははっ。』
『宜しく、お願いします…。
長いこと、通われてるんですか?』
『んー、まだ2ヶ月くらいかなー?
まぁ、たまにサボったりはしますけど、
なんとか続いてます。』
『凄いな…。
僕なんか、
何をやっても継続出来ない質だから。』
『そうなの?
あー、じゃぁ、
何か目標を立てるといいんじゃないかな?
例えば、
恋人と海に行くまでに腹筋割るぞー!みたいな?』
『ふふ…あいにく恋人は居なくて。
彼女、居るんですか?』
『いやいや、
それが3ヶ月前に別れちゃいまして。
でも意外に傷心じゃないんですよねー。
今はとにかく、
自分を磨く為に時間を使いたくて。
いろんな場面で、
大切な人を守れる体を作っておきたくなったとゆーか。』
『へぇ…かっこいい。』
『そうかなっ?』
『はい、とっても…。』
………………
帰りの電車にひとり立って揺られながら、
ドアの向こうに流れる夜景と共に、
何故だか何度もこの会話を想い返していた。
ちょっと誉めてあげたら、
気を良くしたのか顔を赤らめて、
結局は僕があのジムに通う理由を伝えずに済んだけど。
僕とは真逆の、
明るく裏がなくて、
真っ直ぐな笑顔と言葉を向ける人だった。
隙有らば僕の心に侵入して、
打ち解けようとしたんだろう。
『無駄だよ…。』
つい声にしてしまったせいで、
車窓がうっすらと湿り気を帯びた。
もうすぐこの辺りも、
僕の大好きな雨の季節へと移りゆく。
雨音は、
泣き声を消してくれる。
霧雨は、
僕の影をそっと隠してくれる。
どしゃ降りは、
全てをチャラにしてくれる。
《梅雨が待ち遠しいなんて言う人、
君が初めてだな。》
一昨日の夜の男が、
煙草の煙を燻らせながら鼻で笑って言っていたっけ。
バカにしたって何だって、
それでも僕を欲しがるクセに。
僕の中に欲望を放つ快感から、
逃れられなくなっているクセに。
男同士の世界なんて、容易い。
心が無くたって、
簡単に快楽を得られるんだから。
逆に心を求めてしまったら、
その瞬間に大きな傷を背負うことになるけど。
だから僕は【無】を愛する。
【無】を得る為なら【嘘】も幾重にも纏える。
【嘘】で守られている僕を、
誰も見つけることは出来ない。
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